私事で恐縮だが、某プロ野球OBの所属するマネジメント会社から、こんな相談を受けた。「都内で野球指導のできそうな中学クラブチームを紹介してくれないか?」−−。
そのプロ野球OB『A氏』とは、これまで取材で何度かお世話になっている。A氏の学生野球に対する愛情の深さも現役時代から聞かされていたが、電話を掛けてきたマネジメント会社の『条件』とやらには驚かされた。
「ギャラは10万円から。午前中の2時間くらい練習を見させてもらって、お昼は父母との懇談会みたいな内容にし、3時ごろには引き上げたい」
A氏は球宴出場経験も持つスター選手である。A氏と同世代の父母たちも喜ぶだろうが、こんな“破格な金額”で指導依頼するクラブチームがあるのだろうか。
短時間の練習アドバイス、高額なギャラ等はA氏の意志ではなく、マネジメント会社が関連するため、ビジネスとして止むを得ず、提示したものと思われる。
某中学クラブチームの指導者に、マネジメント会社の要望を知らせずに「プロ野球OBによる野球教室」について聞いてみた。
「打撃フォームをチェックしてもらっても、1日だけだからね。チェックされた子供が正しい打撃フォームを習得するまでちゃんと見届けてくれるのなら話は別だけど…」
案の定、あまり評判は良くなかった。
その指導者は「有名選手と接する機会ができれば、子供たちは喜ぶと思う」と前置きし、さらにこう続けた。
「直接声を掛けてもらえた子と、そうでない子に別れるので…。声を掛けてもらえなかった子はかわいそうだから」
1日だけ練習を見てもらっても、効果はないというわけだ。
これまで、元プロ野球選手が高校球児を指導するには教員免許の取得と2年以上の教師実績が必須とされていた。それが数時間程度の座学講習を受ければ可能と変更され、プロ野球界と学生野球の交流に期待する声も多く聞かれた。また、あくまでもプロ野球サイドの目線でだが、引退後のセカンド・キャリアとして、『高校野球の指導』が拡充されると思った関係者もいたそうだ。
すでにこの規制緩和により、2年間の教員実績を作らずに現場指導を許されたプロ野球OBも何人かいるが、座学講習を受けた大多数のプロ野球OBは 「お声が掛かるのを待っている状況」である。
今夏、初出場を果たした代表のなかには、教諭監督が有名校に「ウチと(練習)試合をして下さい!」と、電話を掛けまくった高校もある。これまでお付き合いのなかった無名校からの電話に戸惑っていたそうだが、半年、1年と電話を掛け続け、ようやく実現したという。高校野球の指導において、もっとも重要なネットワークである。練習試合、遠征先でのグラウンド貸借などがそうで、大多数のプロ野球OBが夢見た実技指導は二の次なのが現実だ。プロと学生野球の交流が深まることに期待したいが、夏の甲子園とは指導教諭がどれだけ苦労したかも問われる大会でもあるようだ。(了/スポーツライター・飯山満)