アメリカの大手新聞『The New York Times』は6月6日に、日本の“hikikomori”に関する記事を掲載。 引きこもりは他の国でも見られるが、統一性を強調する日本社会は異質者を日陰に追い込む傾向があり、その理由で引きこもり現象は日本で最も顕著だ、と報じている。また同記事は、“アメリカの子供は自主性と自尊心を高める教育を受けるが、日本の文化や教育は自己という意識を助長する事はしない”という、九州大学の加藤隆弘精神科医の分析を引用している。同医師は、日本では社会に溶け込めない事は恥とされ、協調出来ない自分を否定する気持ちが引きこもりを誘発すると説明する。日本の教育と文化には引きこもる精神状態を促進してしまう要素があるようだ。
内閣府の上記の調査報告によると、中高年の引きこもりでその期間が7年以上に渡る人は47%、30年以上という人は6%を占める。日本の生活環境が引きこもりを促してしまうのなら、一度引きこもると長期間してしまうのは無理がない。
しかし、長期に渡る引きこもりから自分を解放した成功例も実在する。『AERA』(朝日新聞出版)は6月11日付の記事で、開業医の父親の「医者になれ」という暴力も伴う「教育虐待」を受けた男性について報じている。記事によると、男性は医大受験に失敗し27歳から23年間引きこもり状態にあったのだが、母親の再三の勧めで会った支援業者がきっかけで家を出て、独立した生活を始めたという。男性は、その支援業者は無理やり引き出すとか、引きこもりを否定したりはせず、面会を重ねる内に「僕は親の家でなんか、生きていたくない」と自発的に考えられるようになったと話している。
同記事で、引きこもり支援NPO「遊悠楽舎」の明石紀久男氏も、引きこもり当事者から「本音=欲求」が湧き出れば事態は動き出すと語っている。50代にもなると「今更、何をしても無理」という諦めもあるが、「確かに若くはない。でも、ここからだよね。自分が生きたかった人生を生きてみようよ」と声を掛けるという。
ネットの掲示板などでは、引きこもりに対して「国のお荷物」、「在宅ワークでも調べろ」と風当たりが強い。『The New York Times』 が報じる様に、“日本の教育や思考”が引きこもり現象の温床だとの指摘がある。その上、ネットでバッシングを受け、親から「職を探せ」と強いられれば、引きこもりは正に八方塞がりの精神状態だろう。
真の引きこもり支援は、「矯正」や「就業を無理強いする」ことではなく、本人が「どうありたいか、どう生きたいか」を見出だす糸口を、共に暗中模索することではないだろうか。
文: 作家 大内華衣
FNNプライムニュース “中高年の引きこもり「61万人強」...なぜ4分の3が男性?「学歴や職歴が厳しい」から?”
https://www.fnn.jp/posts/00443200HDK
内閣府 “生活状況に関する調査 (平成30年度)”
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/h30/pdf-index.html
The New York Times “Japan’s Extreme Recluses Already Faced Stigma. Now, After Knifing, They’re Feared.”
https://www.nytimes.com/2019/06/06/world/asia/japan-hikikomori-recluses.html
AERAdot. "23年ひきこもり...52歳男性はなぜ家を出られた? 『8050問題』を考える”
https://dot.asahi.com/aera/2019061000088.html