戦史には本当に軍隊が跡形なく消え去ってしまった事例も残されているのだが、それらがメディアなどを通じて広まることはない。たとえば、太平洋戦争中にフィリピンのルソン島でひとりの生存者も残すことなく姿を消した2500名もの将兵については、米軍との戦闘に敗れた後、ジャングルを撤退中に飢餓と病に倒れて全滅したとされるが、それは悲劇であっても怪奇現象ではない。
また、そのような悲劇とは別に、実在する部隊や将兵がこつ然と姿を消し、やがて「訓練中死亡」の通知が届いて遺体はおろか詳細すら知らされない、あるいは、それっきり再び現れず、記録すら抹消されているという、まるでサスペンス映画のような事件も何回か発生している。
映画「シルミド」で有名になった韓国空軍2325戦隊209派遣隊(通称684部隊)事件は、まさにその典型例だが、やはり1960年代後半から70年代にかけてはアメリカもベトナムや中南米の少数民族を訓練し、秘密作戦部隊として使い捨てにしていた。その指導や指揮にあたった軍人の一部は記録が抹消され、現在も行方がわからないままという。
最近ではロシア軍の一部がウクライナやシリアへ秘密裏に送り込まれ、クリミア半島などでは「礼儀正しき人々」と称する公然の秘密となった。だが、少なくない将兵が実戦に参加し、相当の戦死者も出しているとされ、兵士とその家族の人権を守る団体「ロシア兵士の母の委員会連合」などは、不自然な状況で姿を消した将兵の行方を追い、政府に情報公開を迫っている。
こういった形で消えた軍隊は思いのほか多く、また逆説的だが「今後も消える軍隊が現れ続ける」であろう。
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