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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 生涯年収が高い業界はどこか

 学生が就職する業界を選ぶときに、重視するのが生涯年収だ。就職して定年まで勤めたときに、残業代や賞与を含めて、総額でいくらもらえるのかという数字だ。
 業界別の生涯年収を見るときには、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が使われる。この統計では、1歳刻みで、標準労働者の給与や賞与のデータが取れるからだ。
 この統計で、2017年の全産業平均大卒男子の生涯年収を見ると、2億8531万円となる。かつて大卒の生涯年収は3億円と言われたが、いまは3億を若干下まわっている。しかし、この生涯年収のデータというのは、22歳から60歳までの年収を単純に足し上げたものとなっている。実は、このデータには重大な問題があるのだ。

 例えば、大手テレビ局は、かつて内定を取った瞬間に生涯年収8億円確定と言われた。しかし、その後、広告収入低迷が襲いかかってきたため、給与体系を大きく下方修正している。ところが、我が国では正社員の賃下げが事実上できないので、80年代に入社した中高年層は、テレビ黄金時代の高い給料をそのままもらっているのだ。
 もちろん、これから大手テレビ局に入社しても、そんな高給には絶対に手が届かない。だから、いま入社した社員が定年まで勤めた時に、一体いくらもらえるのかを考えないといけないのだ。

 そこで、生涯年収を賃上げ積み重ね方式で推計することにした。
 例えば、今年23歳の社員は、昨年22歳だった。そこで、今年の23歳の年収から昨年の22歳の年収を差し引くと、22歳から23歳にかけての年収増が分かる。この年収増を1歳刻みで計算し、22歳を起点に賃上げ額を定年まで積み上げていくのだ。つまり、いまの加齢による年収増が今後も続くと仮定したときの生涯年収だ。これを新生涯年収と呼ぶことにしよう。すると、驚くことに新生涯年収は、全産業平均で2億4201万円と、通常の生涯年収より4330万円も下がるのだ。
 年齢ごとに見ると、元のデータでは、50歳台になると年収がほぼ1000万円になるが、新生涯年収では、最高でも700万円台にとどまる。

 さらに業種別にみると、給与の高い金融保険業の生涯年収は、3億3448万円と非常に高い水準にあるが、新生涯年収にすると2億7903万円と、全産業平均との差は、3700万円に縮まる。銀行や証券は、昇給ペースを相当抑え込みにきているのだ。
 そして、今回の新生涯年収推計で異彩を放ったのが、電気・ガス・水道・熱供給業だった。通常の生涯年収でも3億1090万円と、金融保険業に近い報酬を得ているのだが、新生涯年収では、2億6994万円と金融保険業と909万円差に迫ったのだ。
 しかも、銀行業界が低金利の定着で構造不況業種になり、今後大規模リストラが見込まれるのに対して、電力やガス業界は、競争が始まったとはいえ安定している。
 サービス業や卸・小売業といった競争の激しい業種の生涯賃金が低いことを考えると、やはり高い生涯年収を得ようと思ったら、競争の少ない業種に限るということなのだ。

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