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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 無責任な厚生年金基金解散

 厚生労働省は、9月28日に厚生年金基金特別対策本部の会合を開き、厚生年金基金制度を廃止する方針を決定した。
 厚生年金基金というのは、企業年金の一種で、厚生年金への上乗せ支給を目指す年金基金が厚生労働省の認可を受けて設立されたものだ。厚生年金基金には、大企業が単独で運営するもの、大企業と関連会社で運営されるもの、同一業種の企業が集まって運営されるものなどがある。

 今回、厚生労働省が厚生年金基金制度を数年かけて廃止することを決めた直接のきっかけは、AIJ投資顧問の年金資産消失事件だった。AIJ投資顧問は、高利回りをうたって一部の厚生年金基金から集めた2100億円におよぶ運用資産の大半を、マネーゲームの果てに消失させてしまったのだ。こうした損失は、それぞれの厚生年金基金を運営する企業が穴埋めしなければならないが、現在のような厳しい経営環境では、その負担が企業の存続さえ危うくしかねない。
 また、厚生年金基金は、企業年金の部分だけではなく、厚生年金本体の部分も国に代わって運用している。これを「代行部分」というが、代行部分の積立金の不足額が1兆1100億円に膨れあがったということも、厚生労働省が厚生年金基金の廃止を打ち出した大きな要因になっている。

 しかし、本当にいまの段階で、廃止という結論でよいのだろうか。なぜ厚生年金基金が行き詰まったかといえば、長引くデフレで株価が下がり続けているからだ。厚生年金基金は、国が運用する利回りよりも高い利回りを目指す。そうでなければ、基金を作った意味がない。だから当然、株式などのリスクのある金融商品での運用を増やさざるを得ない。ところが、デフレが続いたこの15年で、株価が半分になってしまった。だから、その損失を穴埋めするためにAIJのような危険な投資顧問会社に運用を任せるようなことも起きてしまったのだ。
 従って、厚生年金基金を救うための最優先課題は、デフレを脱却して、株価を上げることだ。それをしないで、厚生年金基金を廃止してしまうのでは、政府が厚生年金基金の加入企業と従業員をもてあそんだと言われても仕方ないだろう。

 もうひとつの問題は、官民格差だ。実は、国民年金にも、厚生年金基金と同様に年金給付の上積みを図るための「国民年金基金」という制度がある。厚生年金基金との違いは、厚生年金基金が企業が運営しているのに対して、国民年金基金は国が運営していることだ。実は、この国民年金基金にも積み立て不足は存在しており、その額は'10年度で1兆1293億円に達している。将来の年金給付に必要な金額の33%分が積み立て不足になっている計算だ。
 にもかかわらず、いまのところ国民年金基金の廃止という話は出ていない。その理由を誰も語らないが、やはり最大の理由は、国民年金基金が「国営」であり、官僚の天下り先として重要だからだろう。

 国民年金基金のホームページには、積み立て不足の問題に関して、「中長期的な運用方針を定めて、これを堅持して行くことが、結果的に必要な収益を確保する最善な方法であると考えております」と書かれている。
 私も、この考え方は正しいと思うが、だったら厚生年金基金を廃止する理由はどこにもないのだ。

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