「消費者は舞台裏のウサン臭さを見透かしていたということ。デパートは売上高が15年連続で前年割れに陥っている。本来であればこれをどう食い止めるかに知恵を絞ってバーゲン戦略を立てるべきなのですが、貧すれば鈍するというのか、客の利益よりも自分たちの利益を優先させようとした報いに他なりません」(証券アナリスト)
百貨店各社は昨年まで夏のバーゲンセールを7月初めに実施してきた。ところが、最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)は4月末、「今年は約2週間先送りして7月13日から実施する」と発表、横並び意識の強い業界に衝撃が走った。結果、高島屋は例年通り7月1日から実施する店と三越伊勢丹に歩調を合わせた店舗に分かれたうえ、従来通り初旬から実施した大丸松坂屋、阪急阪神、そごう・西武などの先行組にしても「バーゲン時の消費者は複数の店舗を見て回る傾向が強く、分散で逆に割を食った」(業界関係者)のが実情。それだけに後ろ倒しで口火を切った三越伊勢丹への恨み節が漏れてくる。
「事業会社のトップだった大西洋さんは今年の2月にHDの社長を兼務した。その段階で夏のセールに“大西カラー”を打ち出すのではないかと各社が警戒したのです。というのも、彼は『現在のバーゲンセールのあり方を見直すべきだ。そのためにはセールに頼らない体質に変え、価格への信頼を取り戻す必要がある』が持論。おそらく大西社長には、三越伊勢丹がトップ引きを演じれば他社が追随するとの読みがあったはずです」(ライバル社OB)
とはいえ、デパートにとって夏と冬のバーゲンは年2回のかき入れ時、最大のイベントだ。まして消費不況で売上高が落ち込む中、各社は需要喚起を狙ってセールの実施時期を前倒しすることに活路を求めてきた。
3〜4割引のバーゲンセールは、消費者にとって大変な魅力である。そんな商習慣にクサビを打ち込むように、三越伊勢丹の大西社長が「われこそ正論なり。だからセールの時期を遅らせる」と勝負を挑めば、波風が立たないわけがない。ライバル社OBが続ける。
「三越伊勢丹の決断を強力にプッシュしたのはオンワード樫山、三陽商会などのアパレルメーカーです。だからこそ、彼らは三越伊勢丹が夏バーゲンを遅らせると発表したタイミングに合わせて『店ごとに価格が異なるのは混乱を招くため、セール対象商品は一律に7月13日から供給する』と表明し、他社の追随を促した。対応は各社マチマチでしたが、業界では今回のバーゲン騒動の仕掛け人は三越伊勢丹の大西社長と廣内武・日本アパレル・ファッション産業協会理事長(オンワードHD会長兼社長)というのが定説になっている。業界は紳士揃いだから表立っての悪口は控えていますが『まったく余計な事をしてくれた』が偽らざる本音ですよ」