安倍総裁の正しい対応はこうだ。「俺をなめるんじゃないぞ。なぜ来月に先送りするのだ。なぜ、たった10兆円なんだ。こんな日銀総裁は法改正をしてクビにしてやる」。
安倍総裁がノンキに対応する一方で、マーケットは日銀の本音を瞬時に見透かした。20日の日経平均株価は121円も下落し、翌日には1万円台を割り込んでしまったのだ。
なぜ日銀の発表した10兆円では効果がないのか。それは、リーマンショック後の金融緩和を日米で比較してみれば明らかだ。アメリカは資金供給量を3倍に増やしたが、日本はまだ4割しか増やしていない。だから、アメリカに合わせるだけでも、あと140兆円くらいの資金供給が必要だ。だから、今回の10兆円という金融緩和の規模はケタ違いに小さいのだ。
さらに問題がある。今回の資産買入基金10兆円増額の期限は'13年末だ。つまり、今すぐやりますということではなく、1年先までにやりますということだ。これでは効果がない。
さらにもっと重要なことは、日銀が言っているのは、資産買入基金を増額するといっているだけということだ。基金が保有する国債を増やしても、基金以外で日銀が保有する国債を減らしてしまえば、金融緩和自体を避けることができる。金融緩和をやったふりをして、実は何もやらないというのは日銀の得意技だ。1月23日と24日に開かれる次回の金融政策決定会合で日銀が打ち出してくる政府との政策協定の中身は、抜け穴だらけの実効性のないものになるだろう。このインチキ金融緩和策に安倍総理がどう対応するのかが、当面の焦点になる。
正しいインフレターゲットを採用するのであれば、政策協定の中身は、たとえば次のような表現にしなければならない。
「日本銀行は、生鮮品を除く消費者物価の上昇率が2%となるまで、毎月20兆円ずつ無期限で資金供給量(マネタリーベース)を増額し続ける。もし達成できない場合には総裁は辞任する」
日銀はこうした本来のインフレターゲット策を間違いなく拒否してくる。そこで、次に問題になるのが日銀の人事だ。安倍総理は、4月に任期を迎える白川総裁の後任にインフレターゲットを理解する人を充てると明言しているが、それだけでは十分でない。副総裁も含めて、全員を日銀プロパー以外の人に代えないといけないのだ。それを実現できるかが安倍総理の第二の関門になる。
のんびり構えている暇はない。もし安倍総理が日銀の罠にはまって、実効性のある金融緩和策を採用できなければ、これまで期待感で上昇してきた株価は下落し、為替は再び円高に向かうだろう。そして消費税が上がる2014年度以降は日本経済が恐慌に転落してしまう。春までにその運命が決まるのだ。