調べに対し吉井被告は「刑事の手に財布があった。やっていない」と否認しているが、尻ポケットの財布を狙う手口から捜査員の間では『ケツパーの吉井』(パー=財布の隠語)の異名がつくほどの有名人なのだ。
「法廷に現れた吉井被告は、痩せ細った顔にメガネをかけ弱々しそうな高齢者そのものでしたが、目つきは異様に鋭かったのが印象的でした」(傍聴した記者)
6月3日の公判では、吉井被告を現行犯逮捕した刑事が証人出廷。犯行の一部始終を語った。
《被告が主に男性客の尻ポケットから財布を抜き取る手口をとることは知っていました。尾行を始めましたが何度か駅で下車し、別のドアから乗ったり、一度乗ってもまたすぐに降りたりしていました》
ようやく乗り込んだ千代田線が発車してすぐに、吉井被告は被害者の後ろに密着するように立ったという。
《電車が次の駅に到着の頃、大きな揺れがあり、乗客の体が揺られる状態になった。被告はそれに乗じて男性のコート後ろのセンターベントの間から左手で財布を抜き取ったのです》
これを見届けて刑事は吉井被告の左手を掴み逮捕。その瞬間、吉井被告が財布を落として犯行をごまかそうとするため、刑事は抱きつくようにして動きを封じたという。
「偶然にも同時期、東京地裁でもうひとりの伝説のスリで『デパ地下のさと婆』と呼ばれる神山さと被告が懲役2年6月の実刑判決を受けており、こちらは83歳。全国各地に“伝説のスリ”がいますが、すでにほとんどが60歳以上。この世界も“職人”が消えつつあります」(前出・傍聴した記者)
2人は生涯現役を貫くのか。