監督/藤井道人
出演/シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、田中哲司ほか
アメリカ映画は政治的実話を精力的に映画化して来た。今年、日本で公開された作品だけでも、80年代後半の民主党大統領候補の失脚を描いた『フロントランナー』、ブッシュ政権下で“影の大統領”と呼ばれた副大統領を題材にした『バイス』など枚挙にいとまがない。
それに引き換え日本映画は…忖度、自主規制、同調圧力のオンパレードで、刺激度満点の政治的実話なんか逆立ちしても無理、と嘆いていたが、これほど現在進行形の“ヤバいネタ”を扱った社会派サスペンスが出てくるとは、まだまだ捨てたものじゃない!
東都新聞社会部の女性記者・吉岡(シム・ウンギョン)のもとに匿名のファックスが届く。首相の主導による大学新設問題に関する極秘情報だった。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原(松坂桃李)は現政権に不都合なニュースを国民の目からそらすための“情報操作”をやらされ、忸怩たる思いであった。そんな2人が出会う…。
何だかうやむやにされそうな例の“モリカケ問題”の“カケ”の方を無理なく連想させる話で、まさに問題作。“医療系大学新設問題”をはじめ、政権寄りのライターのレイプ疑惑のもみ消し、内部告発者の役人が追い詰められて自殺したり、と思い当たる現実の事象が描かれる。原案は東京新聞記者・望月衣塑子の『新聞記者』。ボクも同紙の愛読者なので、彼女の存在は知っていたし、親近感も湧く。これをドラマ仕立てにしたものだが、キモは、内閣情報調査室、俗に言う“内調”におそらく初めて日本映画がアプローチしたこと。この日本のCIAみたいなえげつない組織、そのトップを演じる田中哲司が憎々しい。この手の老獪な役をやると本当に巧い。
国民のためにより良い官僚であろうと思うのに、やらされるのは汚れ仕事ばかりというエリートの苦渋を松坂桃李が、正義と葛藤する大卒刑事を演じた『孤狼の血』(18年)に続いて好演する。ヒロインの勇気ある女性記者を韓国女優に演じさせたのは冒険だったろうが、日本の女優が躊躇したから、とも読める。多少は違和感があるものの、シム・ウンギョンは頑張っていた。日韓ハーフ、帰国子女の設定も、見ているうちに、執着心の強い韓国の血、民主主義のアメリカの洗礼が彼女を走らせる、と好意的に捉えられる。結果的に松坂との対比がうまくいっている。
声高になりがちな題材だが、あくまで、不気味な現実に対しクールに、挑戦的に描いており、実にスリリングに見入った次第。こういう作品が話題にならないと“次”が続かないではないか。
《映画評論家・秋本鉄次》