石橋蓮司演じる市川進は嫁の年金で暮らす「売れない小説家」でありながら、深夜になるとトレンチコートにサングラスのハードボイルドスタイルで、馴染みの酒場に夜な夜な繰り出す男。
小説家というのは世を忍ぶ仮の姿で、実は「巷で噂の殺し屋」だった!? という設定も悪くない。冴えないおじさんが知られざる裏の顔を持つというのは、一つの夢ですから。それに、何といってもボルサリーノをかぶって紫煙をくゆらせる姿がキマリすぎ。こんな79歳、芸能界ですら貴重でしょう。そこに、1970年代、華やかなりし頃からの悪い仲間たちが入れ替わり、立ち替わり絡んでくる。いわば老人になりきれない“老老”男女たちが悪あがきする群像劇とも言えます。
『一度も撃ってません』という題名が意味するものは、ネタバレになるので控えますが、ハードボイルドならぬ、ハー「ト」ボイルドとチラシに書かれてあるとおり、コメディー仕立てです。
石橋蓮司たち役者陣が大マジメに演じるほどに滑稽さが増す…はずなんですが…何でだろう…自分の評価は★一つです。監督も出演者も着想も、間違っていないはずなのに…不思議です。
見終わってから、その不思の理由を思わず考え込んでしまいましたが、これといった理由が見つかりません。読者の皆様も、ぜひご覧いただき、ご自身の評価を考えていただきたい。誰か一緒に行って、映画評論ごっこをしてもよいかと。
そして、安倍首相が国会で失言するたびに、首相のつじつまの合わない答弁をもじって、ネット大喜利で盛り上がるように、「一度も○○してません」に的確な言葉を入れてみるとか。
ところで、主人公の小説が「売れない」理由を若手編集者に糞味噌に言われるシーンがありますが、最近、「呆れるほど面白くない」と感じた本を思い出しました。例の、京アニ放火事件の犯人像を追ったルポなんですが、文章があまりにも下手すぎて。
この映画の小説家は面白いネタを仕込もうとあがくほど、本がつまらなくなるというパラドックスにハマりますが、その点が今一つ腑に落ちにくくて、こんな自分の評価になったのか…うーん、期待値を上げすぎたのかなぁ〜。
______画像提供元_:(c)2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ
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■一度も撃ってません
脚本/丸山昇一 監督/阪本順治 出演/石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央ほか 配給/キノフィルムズ TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国にて近日公開。
■ハードボイルドを気取る市川進(石橋蓮司)は、担当編集者も愛想を尽かす売れない小説家。しかし、作品にリアリティーを求めるべく、旧友の石田(岸部一徳)から殺しの依頼を受け、本物の殺し屋に仕事を回して、その状況を取材するという別の顔があった。そんな二つの顔を持つ市川だったが、ただのネタ集めのつもりの行動がきっかけで、妻に浮気を疑われ、さらに敵のヒットマンから命を狙われてしまい…。
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漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターと