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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★山中提言に耳を貸せ

 青色発光ダイオードを開発した中村修二氏と、私はテレビで大ゲンカをしたことがある。中村氏が、青色発光ダイオードを開発した当時に勤務していた日亜化学工業に対して、特許権譲渡の対価の一部として200億円の支払いを要求した裁判を起こしたときだった。

 番組に出演した中村氏に私は「青色発光ダイオードの開発に関して、中村さんの貢献は何%だと思いますか」と聞いた。中村氏は「100%です」と断言した。

 大きな研究開発が個人だけで完結することはあり得ない。私は、聞き方を変えて何度も聞いたが、中村氏は譲らなかった。その経験があったので、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したとき、受賞会見に臨む朝日放送のアナウンサーに、質問を委ねた。
「iPS細胞の開発で、山中教授の貢献は何%ですか」

 山中教授はこう答えた。
「それは高々1%です。ほとんどは、周りの仲間たちの貢献です」

 山中教授というのは、そういう人だ。いつも周りのことを考えている。

 その山中教授が、3月末に自身のHPで新型コロナウイルス対策に関する提言を行った。専門家ではないくせに、という批判を覚悟で提言をしたのは、科学者としての正義と国民を思う優しい気持ちからだろう。

 山中教授の提言は5つある。(1)今すぐ強力な対策を開始する、(2)感染者の症状に応じた受け入れ体制の整備、(3)受け入れ体制の整備を前提とした検査体制の充実、(4)国民への協力要請と適切な補償、(5)ワクチンと治療薬の開発に集中投資。

 このなかで最も重要なのは、(3)の検査体制の充実だ。山中教授はこう言っている。
「これまでわが国は、無症状や軽症の感染者の急増による医療崩壊を恐れ、PCR検査を限定的にしか行ってきませんでした。しかし、提言(2)が実行されれば、その心配は回避できます」

 続けて、「ドライブスルー検査などでPCR検査体制を拡充し、今の10倍、20倍の検査体制を大至急作るべきです。中国、韓国、イタリア、アメリカでできて、日本で出来ない理由はありません」と訴えた。

 ところが、4月2日から、何故かこの部分は削除され、「PCR検査を必要な時に必要な数だけ安全に行う体制の強化が求められています」という抽象的なものに変わってしまった。私は、ここに底知れぬ闇を感じる。

 私は、当初の山中教授の提言に100%賛成だ。緊急事態宣言では、厳しい自粛を求める対象地域が7都府県に指定された。ところが、この線引きが正しいのかどうか、誰にも分からない。日本は市中感染率の調査、あるいはそれに代わる大規模調査をしておらず、どこで感染が広がっているか分からないからだ。今回の線引きは、非科学的に行われたことになる。

 本来なら、世界と同様に大規模検査をして、市中感染率の高い地域を封じ込めないと新型コロナは収束しない。ところが、日本政府は、専門家からの大規模検査の要請を一貫して拒否してきた。おそらく日本で感染爆発が起きているのが分かってしまうと、オリンピックが中止になってしまうことを恐れたのだろう。ただ、無事延期で収まっても、検査の拡充をしない。理由は不明だが、日本は感染爆発地域を封じ込めるのではなく、山中教授の正義を封じ込めてしまったのだ。

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