『昭和の犬』(姫野カオルコ/幻冬舎 1680円)
先月1月16日に発表された第150回直木賞受賞作である。姫野カオルコは、過去に何度かこの賞の候補に挙げられてきた作家だ。なるほど、本書を読めば小説を書くという行為に対し全身全霊を傾けている人なのだろう、と思える。スピーディーにストーリーが突き進むエンターテインメント小説、というわけではない。現実、人は日々を過ごしている間、常にドラマチックな状況を体験してはいないのだけれど、心の中ではあれこれ考えている。このあれこれを作者がじっくりと見詰め、丁寧に微細に文章化したのが本作だ。
主人公の柏木イクは昭和33年生まれ。滋賀県での幼い時期から小学、中学、そして大人へという人生を順にたどっていく。タイトルからわかる通り、自宅で飼っている、あるいは他の家が飼っている犬がきっかけとなって、イクの感じる気分は鮮やかに膨らむ。この心象風景が、まさしく昭和という時代の流れを再現しているのである。
平成26年ともなれば、確かに昭和は多くの人の気持ちの中で過去と捉えられていることだろう。しかし徹底的な敗北を受けた終戦があり、そこからものすごい勢いで経済的な復活を遂げ、バブルの時期へ…という劇的な時代があればこその今なのだ。
一人の平凡に過ごしている女性主人公の視点が、歴史を見事に再現しているところに驚きを感じる。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『森崎友紀DVD付きレシピ写真集 食と欲』(集英社・2415円)
レシピ×グラビア×DVD…美人料理研究家・森崎友紀だからこそ実現できた究極の1冊。約4年分のグラビア総集編に加え、びんびんレシピ48品、セクシー撮り下ろし40分超の悩殺映像集など“ほぼ全ての欲望”を満たしてくれるぞ!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
創刊号の特集が出雲大社、2号以降は伊勢神宮、本宮・速玉・那智の熊野三山、厳島神社、日光東照宮と続くラインナップを見ただけで、これはもう読まずにいられないと思わせるのが、デアゴスティーニから発売中の『週刊日本の神社』(創刊号特別価格290円/2号以降562円+税)。
1月28日に発売された創刊号も、期待を裏切らない出来。出雲大社を上から撮影した大判の航空写真は、神社の全体像を見事に捉えている。他にもCG(コンピューター・グラフッィク)による境内の案内、現地ガイドによるひとこと解説、祭事の年間スケジュール一覧など、随所に工夫が凝らしてある。
もちろん門前町のグルメスポットや土産物紹介の記事もあり、観光案内本としても最適だ。
昨年、出雲・伊勢の遷宮が話題になったのは記憶に新しい。加えて、折からのパワースポットブームもまだまだ健在。いま最も注目される雑誌の一つといえるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意