年金制度は、いまのままでいけば、若い世代でも自分が入れたお金に対して3〜4倍は貰えるようになってるから、システム的には問題がないとされている。
とはいえ、金融庁がまとめた報告書の「老後資金に30年間で2000万円必要」っていうのは、イメージがよくなかったな。年配層のタンス預金を動かすための宣伝資料的な文面だろうけど、それを批判されたら、麻生さんも「俺が考えたんじゃない」みたいな雰囲気になって。
あれで、役人と政治家が一枚岩じゃないことも分かった。政治家にしたら、官僚の作ったカンペを読まないといけない。官僚も、政治家の指示で動いたのに、問題になったらこっちのせいにされる。…なんだか、ひと昔前のプロレス業界にありそうな話だよな(笑)。
年金問題で不安になるのは、俺たち世代、みんなカネがないってことでもある。最近、大御所タレントが熟年離婚して莫大な財産を分与したっていう報道があったけど、そこまでカネがあれば話は違ってくるかもな。
ウチなんかは、結婚したときから、日本とドイツに資産を半分に分けてるから、そういう心配はない。まぁ、俺はそもそも熟年離婚なんて考えたこともないな。
俺が昔、ヨーロッパへ海外遠征に行ったときに、70代後半くらいの老夫婦が手をつないで歩いているのを見かけることが多くて、これは美しいなって思ったんだ。結婚してから喧嘩したり、なんだかんだあっても、俺も年を取ってから手をつないで歩いていられる夫婦になるのが目標だよ。
最近は、子育てが終わったら好きなことをするために離婚する熟年夫婦も多いっていうけど、俺の中ではカッコいいとは思わないな。
まぁでも、そんな夫婦像は理想でしかなくて、現実的には年取ってから男が捨てられるってパターンはあるだろうね。男が定年になって、やることなくてずっと家に居ると、奥さんがうんざりしちゃうんだと思う。
ずっと仕事を頑張ってきた男にとって、定年ってのはようやく手に入れた夢の世界なわけだよ。昼間からゴロゴロして、テレビ見て、趣味に没頭してさ。でも、そんな生活を送るためにも2000万円を貯めとけってことなんだよな。
俺はそれなりに稼いできたかもしれないけど、カネを貯められるほうではない。だから、俺は75歳まで仕事をする気でいる。そのために健康に気をつかうようになったし、そこまでの人生設計をするようにもなった。
ひと昔前は、引退するまでは体を犠牲にして働くだけ働いて、カネを蓄えてっていう考え方だったかもしれないけど、俺は働き続けるほうが人生は充実すると思ってるしな。
60歳前後でドロップアウトした人を見てると、老け込むのも早そうなんだよ。いままで会社の会議や、どっかのパーティーに出席してた人が、ゲートボールしに近所の公園しか行かなくなる。そりゃ、老いてくだけだろ。
だったら老後も週1回でも好きな仕事に携わってる方が、まだいいのかなって思う。男は、そういう“現役感”っていうのが大事なんじゃねえかな。
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蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。