孫正義社長は総会の場で理由の一端を明かした。
来年8月で60歳の誕生日を迎える孫社長は、かねて「60代で社長を退く」と公言してきた。ところが「60代といっても60歳から69歳まであり、もう少しと欲が出ました」と強調。「わがままで彼に申し訳ないことをした」と陳謝した。要は、続投したい一心で後継者の大本命に引導を渡したのだ。後半のくだりは、スタンドプレーで知られる孫社長の面目躍如である。
「孫社長はすぐに“万事は俺が中心”の虫がうずき、せっかくのシナリオを撤回する癖がある。今回だって仲間内では『いつ馬脚を現すか』と囁き合っていました」(同社OB)
伏線がある。海外事業担当のアローラ副社長はアリババ、ガンホー、スーパーセルの株式を相次いで売却、2兆円を調達した。これに対し孫社長は不満だったようで、総会の場で「私は株を売るのが苦手」と言い放った。問題は、戦略面でのバトルがあったにせよ、なぜ孫社長が総会直前の土壇場で荒業カードを切ったかだ。
疑念を呼ぶ案件がある。ソフトバンクは今年1月、米投資家グループからアローラ副社長に対する“告発書簡”を受け取った。アローラ副社長は未公開株投資会社シルバーレイクのシニアアドバイザーを務めており、これがソフトバンクの利益相反に当たるのではないかなど、その適正や実績に踏み込んだ内容だった。
ソフトバンクは特別調査委員会を立ち上げて調査した結果、6月20日に「告発は評価に値しない」と発表。奇しくもアローラ副社長退任の当日だった。これに株式市場では「疑惑をシロに言い換え、彼に恩を売ることで円満リタイアを演出した」との際どい観測さえ飛び交ったのである。
唯一ハッキリしたのは、孫社長が最長であと12年間もそこに居座ることだ。