図の通り、2018年は、'17年に続き、GDPデフレータが対前年比マイナスになってしまった。IMFや内閣府は、便宜的に2年以上の継続的な物価下落をデフレと定義している。わが国は、教科書的な意味でも、'17年に再デフレ化したことになる。
大恐慌期、ニューディール政策を推進したルーズベルト大統領(当時)は、2期目に就任した途端に緊縮財政に舵を切り、せっかく引き下げた失業率をまたもや上昇させ、「ルーズベルト恐慌」という不名誉な呼称を残すことになった。
というわけで、筆者が今回の再デフレ化について名付けてあげることにしよう。安倍デフレ。安倍総理は日本を「再デフレ化させた主犯」として、歴史に燦然たる名を残すことになったわけだ。
皮肉はともかく、安倍デフレ下で日本国民は、過去に前例のない消費と所得(賃金)の落ち込みに苦しめられることになった。
総務省は、'18年1月に消費支出統計の調査方法を変更し、例により「実質消費が高く出る」状況になった。とはいえ、さすがに賃金統計を巡る厚生労働省の騒動で懲りたのか、「調査方法の変更の影響による変動を調整した推計値」で報道発表がなされた。'18年平均の2人以上世帯の消費支出は、実質で前年比0.4%の減少。(調査方法変更の影響を考慮しないと、'18年はプラスになってしまう)実質消費の落ち込みは5年連続だ。
信じがたいこの現実。わが国では'14年以降、毎年「1年前よりも実質消費が下がる」状況が続いていることになる。'13年と比較すると、'18年の実質消費は▲7.6%。'13年にはパンを100個買えていたのが、'18年は92・4個しか買えなくなってしまった。これが「安倍デフレの結果」だ。
消費税増税の影響は、ここまですさまじいのである。'14年から'18年まで、5年連続で実質消費が対前年比マイナス。'14年の消費税増税後、実質消費が「下落して、下落して、下落して、下落して、下落した」ことになる。リーマンショックや東日本大震災の落ち込みは、一時的なモノだった。
ショックの翌年(もしくは翌々年)には、ある程度は回復しているが、'14年の消費税増税後は「回復」がない。これほどまでに連続して実質消費が落ち込んだのは、間違いなく日本史上初めてである。
安倍晋三内閣総理大臣は、文句なしで、「日本の憲政史上、最も、国民の消費を減らした内閣総理大臣」だ。
そして、なぜ実質消費が落ち込んだのかといえば、もちろん実質賃金が下がり続けているためである。厚労省の発表では、'18年が対前年比でわずかに上昇したが、これは本連載で繰り返し取り上げた'18年1月の「サンプル変更」の影響で、共通事業所に限った数値で見ると対前年比▲0.3%の落ち込みだった(もっとも、厚生労働省は共通事業所の実質賃金を公表しようとしないため、上記は推計値になる。下がったことは確実だ)。
実質賃金が下がれば、国民は消費をできなくなり、実質消費が減る。すると、需要縮小で生産性向上が不要になるため、実質賃金が伸びない。すると、実質消費が減る。という、悪循環に入っていることが理解できる。この状況で、本当に'19年に消費税増税を強行するのだろうか。いや、強行できるのだろうか。消費税増税とは、国民の消費に対する「罰金を増やす」意味を持つ。
日本国民の実質消費は、'14年4月の消費税増税で「暴落」し、その後は全く回復しない、文字通り「絵にかいたような」L字型低迷に陥った。この状況で'19年10月に消費税再増税を強行したら、どうなるだろうか。確実に、'19年9月の多少の駆け込み消費を経て、その後は「一段下がった」形のL字型低迷に陥ることになる。
しかも、'19年10月の消費増税は、税率が極めてまずい。消費税率は、10%へ引き上げられてしまうのだ。
税率10%ということは、我々一般の消費者が、税額を瞬間的に計算できてしまう。1万5800円の8%を暗算できる人は少ないだろうが、10%なら簡単だ。もちろん、1580円である。税額の計算が容易ということは、税の負担感を増すことになる。心理学的に、消費税は「金額が分かりやすい」ほど、消費への判断や決定への影響が大きくなることが証明されている。
'19年10月に増税を強行すると、少なくとも'14年4月と同じ規模の消費縮小が起きるだろう。消費、厳密には「民間最終消費支出」だが、国民経済における最大の需要項目なのだ。デフレ脱却を目指す安倍政権が、'14年増税で日本を「安倍デフレ化」し、挙句の果てにさらなる需要縮小にまい進する。狂気、という言葉以外には浮かんでこない。
結局のところ、安倍政権は'97年に消費税を増税し、日本経済をデフレにたたき込んだ橋本政権の後継政権だったという話である。デフレという総需要不足であるにも関わらず、消費税を増税し、国民の「消費という需要」を削減し、さらには政府自らも支出削減で需要を減らし続ける。経済が再デフレ化し、国民がひたすら貧困化していって当たり前である。
もはや、安倍政権に期待する時期はすぎた。日本国民は「反緊縮財政」を標榜する政党を支持する必要がある。ところが、現在の日本の政界では、野党までもが緊縮推進という体たらくだ。となると、正しい道は一つだけ。「反緊縮財政」の政党を、国民が自ら作り出す必要がある。我々は、そこまで追い詰められているのである。
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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。