初めての本格的な寿司店として評判を集めた竹寿司がオープンした1975年から10年間ぐらいの間の話だ。
月日は流れ、DJが入って音楽を流し、バーで寿司をつまみながらアルコールを飲むというスタイルのスシバーなるものが出来た。日本にも渡来したがやっぱり根付かなかった。
そしてカリフォルニアロールを筆頭に、アメリカナイズしたフュージョン寿司なる、日本人にはすこぶる評判の悪い寿司を出す店が雨後のタケノコのように出来始めた。そして「NOBU」が始めた小さくて高いカナッペのようなお寿司が段々主流になって、魚の高さや家賃の高さとあいまって寿司の値段は高騰した。
そして今、正統な江戸前寿司で勝負する寿司レストランがアメリカ人にも支持され始めている。2006年にオープンした「15E(フィフティーン・イースト)」は日本の寿司屋という感じでは全くない。同じブロックに2000年にオープンした「トクヴィル」というフレンチアメリカンのレストラン経営者のマルコ・モレイラ氏とジョアン・マコヴィツキーさんがオーナーである。
客層は3分の1が日本人で、NY在住の日本人の間でも認知度はあまり高くないのだが、今まで噂の寿司店は一通りチェックして裏切られ続けて来た寿司ファンとしては期待して出かけてみた。
この日の一番人気はカウンターに山と盛られたサンタバーバラの大ぶりのウニで、こんな大きな殻付きウニを日本では見た事がない。大味なのではないかと思ったがどうしてどうしてなかなかの美味だった。NYで空輸の氷見の寒ブリを食す、というのもなかなかシュールで得がたい経験だったが、私は地物の平目やウニ、トコブシが美味しいと思った。
今回筆者が支払った額はチップを入れて197ドル。「妥当な額」と言う人がいれば「泥酔するほど飲んだの?」と仰天する人もいた。ちなみに私が飲んだのはホワイトワイン一杯である。
6ドルほどの寿司のテイクアウトを提供する店もあれば、600ドルという料金設定で有名な店もある。
それがニューヨーク。
オーナーのジョアンさんいわく、「アフォーダブル・ラグジュアリー(手の)届く贅沢)、ブランドで言えばコーチかしら」と非常にわかりやすい表現を提供してくれた。うかつな事にすっかりスターシェフ、清水マサトさんに任せっきりにしてメニューすら開かなかったが、一頃大変人気を集めたツナタルタルからイカ墨のリゾットやツナウォルドルフ、そして手打ちのソバまであるというバラエティの広さ。本格的な寿司と、NYテイストを加えたオリジナル料理まで楽しいメニューが揃っている。
中途半端な寿司店を何軒も回るよりは「フィフティーン・イースト」のお任せを一回堪能する方が満足度は高いはずだ。近いうちにミシュランで星を獲得するであろう事は確実で、そうなると予約がなかなか取れなくなるかもしれない。今までNYで回った寿司店の中では一押しのレストランである。(セリー真坂)
15E(フィフティーンイースト)
15E15 Street