経営コンサルタントは、こう分析する。
「無印は強い。2017年2月期第3四半期決算では、純利益が前年同期比16.7%増の199億9600万円。第3四半期決算として4期連続の最高益更新となっています。それはアパレル業界を見れば顕著で、'17年2月期第3四半期決算では婦人ウエアが前期比で3.5%増。紳士ウエアも6.8%増と、苦しむ百貨店とは対照的。その業績の勢いで、今度はホテルですからね」
良品計画が7月5日にリリースしたホテル概要によれば、新ホテルの場所は銀座3丁目の読売新聞東京本社と三井不動産が展開、建設する、10階建て新ビルだ。6階までは『無印良品』の店舗となり、売り場面積は約3300平方メートル以上の旗艦店。'19年春の開業を目指すという。
「さらに6階の一部から10階までをホテル(仮称『MUJI ホテル』)として稼働させる。設計運営はホテル建築運営に実績のある小田急電鉄グループのUDS。コンセプトはアンチゴージャス、アンチチープで、部屋の中はテーブルからベッドカバーまで無印商品で統一されるといいます」(同)
無印では近々、奈良市の刑務所跡再開発地、さらに無印信奉者の多いとされる中国の北京と深センでもホテル建設計画を進めている。
「無印は現在、世界27カ国で約800店舗超を展開しており、海外の売り上げが全体の3割を占めています。中でも中国、韓国、マレーシア中心に無印商品は大人気。その熱烈な愛好家たちの間で旧都庁跡地にある有楽町店は“聖地”とも呼ばれ、多くの外国人観光客が立ち寄っています」(百貨店関係者)
ところが、その有楽町店が契約の関係上、今後、残存できるかどうか微妙となった。ならば、外国人観光客をキープするためにも近場のホテルと旗艦店をセットにして売り出そうというわけだ。
それにしても、この東アジアを中心にした熱狂的な無印愛好家はどうして生まれたのか。アパレル業界関係者はこう言う。
「無印良品の原点は“ノーブランド”。衣料品なら着心地、生活雑貨なら使い勝手、食品なら健康によいものにこだわっている。例えば、パジャマなら脇の縫い目のないものでヒットした。婦人ウエアは、オーガニックコットンフランネル素材のニットやシャツが好評。シンプルなデザインで、機能的かつリーズナブルな価格帯の衣料品は、節約マインドを緩める。無理のない価格でお洒落を楽しむことができる、時代にマッチした戦略で、そのコンセプトは他の商品や建造物でも生きる。安いながらも日本らしい質のよさが、海外の人たちに受け入れられているのではないか」
しかし、『無印良品』が最初から国内外の人たちに爆発的に受け入れられたわけではない。
「良品計画は1980年、西友のPB商品部門として出発し、やがて独立。当初は順調だったが、2001年に赤字に転落した。原因は急成長による慢心、経営の硬直化などが言われましたが、人事の見直しからすべての面で再点検を行った。中でも、とりわけ究極の対策とされたのが、消費者参加型の商品開発に転じたこと。これが功を奏して大躍進が始まり、“ムジラー”とまで呼ばれる愛好家が増えたのです」(前出・経営コンサルタント)
今年5月末時点で、海外の『無印良品』は中国を中心に408店を展開し、2018年2月期末には、日本より海外の店舗数が多くなる見通しだ。
海外進出に伴い、知名度も急上昇している。世界最大手のブランディング会社・インターブランド社日本法人調査によれば、『無印良品』の“ブランド価値”は5年連続で25%超増加。「日本のグローバルブランド 2017」でも初めてランクインして19位に食い込み、“世界の無印”になりつつある。
「ホテル展開においては、高級宝飾品ブランドの『ブルガリ』や『アルマーニ』、『ベルサーチ』ほか、アパレルやライフスタイルブランドの運営例もあるため、手法次第では成功の道が開ける可能性はある。しかし一方で、アパレルや日常品の商品開発とホテル経営は似て非なるもの。無印の商品が世界的に成功してきたのと同じように、必ずしもうまくいくという保証はない。ひとまず'20年の東京五輪までは知名度と話題性でいけるでしょうが、問題はその後でしょう」(ホテル業界関係者)
無印の新たな挑戦は、どこまで通用するのか。