『なぜ、「怒る」のをやめられないのか』(片田珠美/光文社新書 798円)
ツイッターやフェイスブック等、インターネット上でのコミュニケーションはすっかり定着している。見知らぬ誰とでもコンタクトを取れる今は、確かに10年ほど前よりはるかに進歩した世の中といえよう。しかし、いい面ばかりがあるわけではない。ブログの炎上といった、ネット上での口撃の応酬は常に絶えない。人はおおむね寂しがり屋であり、より多くの人と仲良くし、自分は孤独ではないと信じ込もうとする。しかし同時に自己が中心であり、怒りやいら立ちを多くの他人にぶちまけたくなる生き物だ。
本書の著者は1961年生まれの精神科医である。その立場から、すべての人間が抱いていて当然の怒りや悲しみ、世間的にはみっともないとされるマイナス感情がなぜ生まれるのか、分析する本をいくつか出している。2009年に新潮選書の1冊として出た『無差別殺人の精神分析』ではストレートな凶行で怒りを表現した有名な犯罪者たちについて書いていた。一方、本書では日常で怒りを小出しする、例えば嫌みを言う、些細な意地悪をするなどして他人に迷惑をかける人を取り上げている。そして彼ら彼女らの内面を分析する。
ごく身近にいるマイナス感情のかたまりのような人と付き合う際、本書は格好の参考書になるだろう。なぜこいつは迷惑な行為を続けるのか、という疑問を解消すると気分がすっきりするからだ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『日本人なら知っておきたい家紋と名家のいわれ』(大野敏明/じっぴコンパクト新書・800円)
「源平藤橘」を源流として枝分かれし、守り継がれてきた一家の証しである家紋のいわれを、大名や公家などの名家の来歴、系譜などを踏まえて紐解いている。美しく洗練された紋所を眺めるだけでも楽しい1冊だ。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
LCC(格安航空会社)の登場により、空の旅がより身近になった。例えば東京→札幌は最安値で4590円。座席はやや窮屈そうだが、それでも安さには代えられない。
ぴあムック『空旅』(ぴあ/780円)は、そんな格安航空を上手に使うガイド雑誌。各社の激安料金比較表やネットによる予約方法などを詳しく紹介している。
また、これまでとひと味違ったカジュアルで親しみやすい客室添乗員の制服図鑑や、手軽な娯楽施設と化しつつある国内主要空港の飲食店案内、「空弁」と呼ばれる限定弁当の味比べまで、空の旅の楽しみを倍増させる企画も満載だ。
LCCの場合、機内で提供されるドリンクや食事が有料であることや、チェックインに時間がかかる、マイルが加算されないなど、デメリットも指摘されているが、そうしたリスクも解説。賢く活用するのに留意すべき点が、わかりやすく伝わってくる。
今までになかったレジャー情報誌として注目したい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意