単に「珍味」とくくると誤解を招きかねない超珍味。テレビ番組でよく観る企画だけど、実は珍しいだけじゃなく、そのほとんどは栄養価が高く低カロリーでとってもヘルシーなんです。
最初に訪ねたのは東京・池袋にある創業50年の郷土料理店「信州料理 木曽路」。いきなり豆みたいなのが乗せられた小皿2枚をポン! 鈴木喜三郎店長は「蜂の子と蚕(かいこ)さなぎです。どちらもたんぱく質満点ですよ」とほほえむ。信州では、猟師や木こりらの貴重なたんぱく源として重宝されてきたという。深呼吸して息を整えた。
まずは蜂の子。慎重に口に運ぶと、意外と甘くておいしい。この調子ならばと蚕さなぎに手をつけたところ、今度は干しぶどうをさらに乾燥させてパサパサ度が増した感じ。苦味があって正直キツイ。
「私でもキツイですからね(笑)。ただ、好きなお客さんはそればっかり食べますよ」と店長。笑えませんって! ところが、促されるまま大根おろしと食べるとアラ不思議、違和感なくさっぱり食べられる。店長、最初に教えてください!
お次はカエル。腹を出してひっくりかえる赤カエル3匹を2本の串で突き刺し、なんともグロテスク。ここはより慎重に少しだけ箸(はし)でつまもうとすると、店長が「こうするんだよ」と、カエルの足を広げてまたからダイナミックにかぶりつく食べ方を教えてくれた。
覚悟を決めてワイルドにほおぼると結構いける味だった。食感は鳥のササミ。味はホッケに近い。レモンとゆずコショウで味付けし、あっさり完食した。
これらはすべて創業当時から出しているメニュー。「最近は、上司に無理やり食べさせられてハマっていく若い子が多いね」(店長)という。さなぎはキツいけど、ほかはハマるかも…。
◎信州料理 木曽路
昭和35年の創業以来、信州料理を中心に営業している。人気メニューはさくら鍋(1人前1260円)やすっぽん鍋(同1980円)。ふきみそ、からしみそ、焼きみそをあわせた自家製三種の練りみそによる味付けにファンが多い。営業時間は平日は午前11時から午後3時と、午後4時から午後11時。土日祝日は午前11時半から午後11時。池袋駅東口より徒歩約2〜3分。東京都豊島区東池袋1-4-3。
続いては東京・六本木のアジア料理店「Angtong(アントン)」。タイ、ラオスなど東南アジア料理を中心に珍しい食材を味わえる。普段は店で出していない特別メニューを作ってくれた。
「美味しいメニューをそろえました」と素敵な笑顔の齋藤真紀オーナー。同期入社の高阪貴也記者を「飲もうよ」とおびき出し、とりあえずラオスビールで乾杯。国産ビールよりもノド越しすっきりでグイグイいける。
よし、ツマミいっちゃおう。まずは「蟻の卵の玉子焼き」から。見た目は普通の玉子焼き。蟻の卵をかむたび酸味がプチプチと口の中に広がる。これはおいしい。「芋虫の素揚げ」は赤唐辛子と青唐辛子に塩を絡めた味付けといい、芋虫の原形をしっかり留めている。
「タイの田舎料理でカルシウム満点です。芋虫もタイ産なんですよ」と勧める齋藤オーナー。美人には弱い。意を決して口に放り込むと、おやっ、サクサクして食べやすいぞ。塩味が効いていてスナック菓子みたい。芋虫と聞かなければまったく抵抗なし。箸が進む。
オーナーのイチ押しはチリソースをかけた「タイ産バッタの素揚げ」。口元でバッタと目が合った。香ばしくカリカリしておいしい! 味はエビに近い。
超珍味、恐るるに足らず。その気勢は「タガメ入りの青パパイヤサラダ」にそがれた。つぶしたタガメと青パパイヤをナンプラーとココナツシュガーであえたもの。黙々と食べていた高阪記者がこれまでとは決定的に違う反応をみせた。想像できないかんきつ類の風味。本日最も食べにくい一品だった。
「これは正式メニューですよ。タガメは美白効果もありますから、特に女性に人気なんです」と齋藤オーナー。せっかくのごちそうだ。「箸が止まってるよ」と責め合いながら完食した。本当にお腹がいっぱいになったとデスクに報告すると、「おまえすごいな」と入社以来初めてほめられた。
◎アジア料理店 Angtong
タイ、ラオス、べトナム料理などが食べられる。取材では特別メニューを出してくれたが、珍味中心の店ではない。人気はラオスの定番メニューである豚ひき肉とハープのさっぱりとしたサラダ「ラプームー」。営業時間はランチが午前11時から午後3時。ディナーが午後5時半から午後11時。定休日は日曜日。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口からすぐ。東京都港区六本木7-14-11 VIAビル地下2F。
◎取材後記
国や地方が変われば食文化も変化することを実感させられた。食べようか、やめておこうか、箸を持ったり置いたりして苦悩する姿を、タイ人のウエイターが不思議そうに見る。「虫はよくたべるよ。おいしいよ〜」と笑っていた。
過酷な取材を覚悟していたが、意外にも「おいしい」と思えるものが多かった。実際、取材に協力していただいた両店とも“超珍味”は完食率が高いという。タイ産バッタなどは毎日でも食べたいくらい。日本のバッタに比べて足が長いのが特徴で、のどに引っかかることもあるため足は食べないほうがいい。しかし、エビのシッポのように食べるとツウっぽい。
取材を通して、個人的な食材の範囲は相当広がった。これでジャングルの奥深くに突然放置されても生き抜くことができる。もはや食べられるだけで幸せ。生命力に少し自信が持てた。