三菱東京UFJ、三井住友、みずほの3大メガバンクのATMで、今年の春以降、中国の『銀聯(ぎんれん)カード』の偽造カードや他人名義のカード約200枚を使って、総額10億円以上が不正に引き出されるという事件が発覚した。
「使われたカードは、データが入力されていない“生カード”に磁気テープを貼り付ける手口で偽造されていました。警視庁組織犯罪対策特別捜査隊は、窃盗などの容疑で台湾出身の男4人を逮捕しました。10月8日に台湾から来日し日本で指示役と接触、30万円程度の報酬を約束されての犯行でしたが、他にも相当数の“出し子”がいるはずです」(警視庁担当記者)
今回のこの事件では、デビットカード機能を使って中国国内にある銀行口座の預金を引き出していた。人民元はその日のレートで日本円に両替され、容疑者が引き出したのは円だ。
この銀聯カードは、中国人旅行者と日本などの受け入れ国に大きなメリットや経済効果をもたらす一方で、人民元の国際化を狙って同カードの利用を世界に広めてきた中国にとって、今や“脅威”になっている。
「銀聯カードは46億枚という世界一の発行枚数を誇りますが、もともとは、中国国内で中国国民の買い物が便利になるように発行されたものでした。銀行のキャッシュカードを兼ねたデビットカードですから、中国国内の銀行に口座を作れば自動的に発行されます。また中国に関係する日本人も必ず持つカードでもあり、日本では三井住友カードと三菱UFJニコスが中国銀聯と提携して銀聯ブランドのクレジットカードを発行しています。'15年第1四半期の銀聯カードの日本国内での取扱高は、加盟店とATMを合わせて約4800億円に達しています。日本のATMはICカードと磁気カードがどちらも使えますから、日本での不正引き出しに及んだのでしょう」(犯罪ジャーナリスト)
中国国家外貨管理局は、不正所得を海外へ移転させないように動き出している。'16年からは年間の引出額の上限が10万人民元(約161万円)に定まった。背景にあるのは「マネーロンダリング」(資金洗浄=マネロン)だ。
ところが、これが抜け道だらけ。だから中国政府の意図とは裏腹に、多額の現金を積めた紙袋を持って日本の不動産屋に現れ、即金で不動産を購入する中国人が頻繁に姿を見せるのだ。
「複数行に口座を作れば、手元に10枚や20枚の銀聯カードを持つことができる。やりようによっては10億円以上を海外に持ち出すことができるのです」(中国経済事情通氏)
警視庁・刑事局組織犯罪対策部の犯罪収益移転防止対策室は『犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書』('14年12月)という報告書の中で、「訪日外国人の利便性向上の観点から、海外で発行されたカードを使って日本円を現金で引き出せるATMの設置を促進する動き」があることを危惧している。
同報告書は実名こそ伏せているものの、銀聯カードが世界規模での資金移動を可能にすることを示唆しているのだ。
さらに「このような環境はマネロンなどを意図する国内外の者に対して、さまざまな手段、方法を提供することになる」と指摘している。まさに、この警視庁の懸念が現実のものとなったのが、今回の『銀聯カード事件』なのだ。