日本国債の最大所有者は国内銀行である。さらに、生命保険や損害保険会社の国債保有も莫大だ。何しろ、国内の銀行、生命保険、損害だけで日本国債保有者の過半数を軽く上回る。
それでは、なぜ日本の銀行は国債を保有しているのだろうか。前回も書いたが、銀行にとって「銀行預金」は金融資産ではない。金融負債だ。銀行預金とは、銀行が読者などの国民から「借りた」お金なのである。
銀行は国民から「預金」として借りたお金を、企業に貸し付けることで金利収入を得るのが商売だ。当然、銀行から企業への貸出金利は、預金金利を上回らなければならない(さもなければ、銀行は逆ザヤになってしまう)。
ところが、現在の日本はデフレである。デフレの国では、企業は積極的に投資をしようとはしない。企業の設備投資は、普通は銀行融資により実施される。すなわち、企業側に投資意欲がなければ、銀行からの融資は増えない。あるいは、デフレの深刻化で中小零細企業の業績が悪化すると、銀行側がこれらの企業に貸し出しを増やしたくないというケースも出てくる(いわゆる貸し渋りの発生)。いずれにせよ、デフレ期には銀行から企業への融資(貸し出し)が細ってくる。
とはいえ、デフレが悪化していくと国内に閉塞感、不安感が満ち溢れ、国民は消費や投資を減らし(これがデフレを促進するわけだが)、銀行預金を増やしてくる。2011年末時点の日本の家計の現預金は830兆円を上回り、この額はアメリカの全家計の預金総額の1.5倍だ。信じがたいという読者も少なくないだろうが、世界で最も預金を貯めこんでいるのは日本国民なのである。
さらに、現在は余裕のある企業までもが預金を増やしている有様だ。2011年末時点の一般企業(非金融法人企業)の内部留保における現預金額は230兆円を上回る。一体全体、一般企業がこれほどまでの預金額を貯めこみ、何をしたいのだろうか。
企業の仕事は預金を貯めることではなく、銀行融資を増やしても設備投資を拡大し、国民経済を成長させることだ。とはいえ、デフレ期には銀行からの借入を増やし、経済成長の主役を務めるべき企業までもが「将来不安」から預金を貯めこむようになる。
銀行の手元に、民間の家計や企業から「日本円」の預金が次々に「貸し付けられる」。それにも関わらず、デフレの深刻化で企業側に資金需要がない。それでも、逆ザヤを避けるために何としても日本の銀行は「日本円」を誰かに貸し付けなければならない。
「外国に貸し出せばいいのでは」
などと考えないで欲しい。何しろ、日本の銀行の手元に日々、預金として積み上がっているのは日本円だ。そして、日本円を借りてくれる経済主体は日本国内にしか存在しない。日本円が流通しているのは、世界に日本国ただ一国なのだ。
というわけで、銀行は手元に貯まっていく銀行預金という「金融負債」の運用先として、日本国債を選択しているわけだ。具体的には、預金として借りた日本円を日本政府に貸し付け、金利を稼いでいるわけである。
生命保険や損害保険、年金なども同じだ。保険料として定期的に「我々日本国民」が収めているお金は、彼らにとって金融負債に該当する。日常的に積み上がっていく保険料の「運用先」として、日本国債を選んでいるだけの話だ。何しろ、デフレによる景気低迷で、他に目ぼしい運用先がないのだ。
たとえば、現時点で政府がマスコミの圧力に負け、10兆円の日本国債を銀行から償還した場合、何が起きるだろうか。すなわち、日本政府が国内銀行に10兆円を「返済」するわけだ。政府から10兆円を返してもらい、銀行が喜ぶとでも思っているのだろうか。
政府から返済された10兆円は、別に銀行の自己資金というわけではない。我々日本国民から「借り入れた」銀行預金が原資である。銀行は政府から返済された10兆円について、すぐさま新たな貸付先を探さなければならない。とはいえ、デフレで民間の資金需要が小さくなっている以上、目ぼしい借り手はいない。というよりも、そもそも目ぼしい借り手がいないからこそ、銀行は預金を国債で運用していたのだ。
結局、政府から10兆円を返済してもらった銀行は、新たな運用先としてまた「国債」を選択することになるだろう。何しろ、デフレが深刻化している限り、日本円の大きな借り手は日本政府以外には存在しないというのが現実なのだ。
日本国債の発行残高が増えているのは「デフレ」が原因なのである。デフレから脱却しない限り、日本の国内銀行に代表される金融機関が「我々の金融資産(彼らにとっては金融負債)」を日本国債で運用しようとする傾向は続くだろう。結果的に、日本政府は1%未満という「人類史上空前の低金利」で国債を発行し続けられることになる。
ちなみに、日本国債は6.69%のシェアを持つ外国人保有分を含め、100%日本円建てである。子会社の日本銀行に日本円を発行させられることができる日本政府の国債が、債務不履行になることはあり得ない。
そんなことは国内の金融機関もわかっているからこそ、手元の預金や保険料などをひたすら日本国債で運用することが続いているわけだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。