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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 政策の対立軸

 6月26日、消費税引き上げ法案の衆院採決で、民主党は57人の造反者と15人の棄権・欠席者を出した。造反を主導した小沢一郎元代表に対して前原誠司政調会長は、「次の選挙を考えて行動しているようにしか思えない。目先の選挙で物事を決めるのは、本当の政治家ではない」と痛烈に批判した。
 本当にそうだろうか。もし小沢氏が行動を起こさなかったら、増税法案は自公民の圧倒的多数で可決されたことになる。今回の採決は、民主党内に決定的な政策対立が存在することを国民に示したという点で、大きな意味があったのだ。

 一番の対立点は、もちろん社会保障と税の一体改革だ。民主、自民、公明の三党は、消費税引き上げについては合意したが、社会保障に関しては、今後、国民会議で1年かけて議論することになっている。
 しかし、国民会議での議論は、始まるかどうかさえ疑わしい。民主党と自民党の間で、社会保障に対する考えに大きな隔たりがあるからだ。採決直前の特別委員会の審議でも、自民党は現行の年金制度に問題がないと主張する一方で、民主党は最低保障年金の導入をあきらめないとしている。
 国民会議は、三党合意のうえでしか開催されない。だが、民主党と自民党に歩み寄る気配がないのだから、社会保障改革は膠着状態になったとみてよいだろう。
 もともと民主党は、「国民年金の未納率が40%を超える中で、現行年金制度は破たん状態になっている。だから税を財源とする最低保障年金を導入しよう」と言ってきた。その財源として消費税率を引き上げても、国民年金の保険料の支払いがなくなるのだから、国民負担は増えないとしてきたのだ。ところが社会保障改革が頓挫し、国民年金保険料の負担が続いているにもかかわらず、増税だけは先行して行うというのが、野田政権の一体改革案だ。そんな「やらずぼったくり」に反対することは、十分な大義になるのだ。
 民主と自民に横たわるもう一つの対立軸は、TPPだ。今回の消費税法案造反組のなかに山田正彦前農水大臣や川内博史氏が含まれていたことに象徴されるように、造反組の多くがTPP交渉への参加に反対している。つまり造反組は基本的に弱肉強食のグローバリズムに反対する人たちなのだ。
 そして3つ目の対立軸が脱原発だ。野田総理は、大飯原発の再稼働を決定した6月8日の記者会見で、「原発は重要な電源。国民生活を守るために再稼働をすべき」と述べた。つまり、夏場の電力不足を補うために再稼働するのではなく、原発を引き続き重要な電源と位置づけるとしたのだ。枝野経済産業大臣は、中長期的には脱原発を目指すとしているが、総理の口から脱原発という言葉が出ることはなかった。

 一方、造反組の小沢一郎元代表や鳩山由紀夫元総理は、大飯原発の再稼働に反対する署名を官邸に提出している。
 つまり、今回の造反組は(1)消費税引き上げ反対だけでなく、(2)TPP参加反対、(3)脱原発推進という3点で、ほぼ共通理念を持っているのだ。
 小沢氏個人の評価は、いろいろあるだろう。しかし、この共通理念を支持する国民は多いのではないか。造反組は、さっさと民主党を飛び出し、次期選挙ではこの3つの政策を前面に押し出して、頑張ればよいのではないだろうか。

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