「真っ向勝負」を宣言し、アテネ五輪で金メダルを獲得した最大のライバルを相手に、大黒柱のダルビッシュをぶつけながら完敗の内容。頼れるはずのエースが4失点を喫し、5回途中で降板。1次リーグ初戦を勝利で飾り、勢いをつけようとした星野監督のもくろみはもろくも崩れさった。
本番前、最後の実戦となった8日のパ・リーグ選抜戦でもダルビッシュは制球に苦しんでいた。プロ野球の公式球から国際球に短期間で慣れるのに苦労していると指摘されていたが、その不安が的中してしまった。加えて外角に広いとされる五輪のストライクゾーンに対応しようとしたせいか、外角球でひじが下がるなど、フォームも乱していた。
すさまじいプレッシャーと慣れない状況下で本来の力を発揮できなかったエースに「緊張感の中で本来の投球をしていなかった」と星野監督も、自分のことのように悔しがった。
本番前、チームに渡された「五輪公式球」はわずか24球のみだった。ただでさえ実戦不足が指摘される日本は、“公式球のワナ”にはまってしまった。投手陣は、やはりボールの違いに違和感を感じていたようだ。7回に登板した田中も、3つのアウトはすべて空振り三振で奪ったとはいえ、1安打1四球を許すなど、制球に苦しんでいた。初戦の硬さがあったとはいえ、選手たちは本来の力を発揮できずにいた。
「短期間でチームをひとつにするのは難しい。本当ならば2週間くらいほしい。ちょっと余裕がない」
星野監督の口からも弱気な言葉が出始めた。代表合宿が始まったのが2日。11日間で迎えたキューバ戦はまだチームとして機能していなかった。
実際、キューバ戦では打撃陣も持ち味を発揮できなかった。1点を追う3回には無死二、三塁の好機をつくりながら犠打による1得点どまり。5回には同点に追い付いたが、無死一塁の場面で西岡が初球にバントを失敗し、結局は遊飛。さらには4、6、7回と3度にわたっての併殺打もあり、得点を重ねることができなかった。プレッシャーの中でどこか硬さが抜けず、チグハグな攻めばかりが目についた。
また、選手と同様に監督にも「硬さ」があるようだ。プロ野球前西武監督の伊東勤氏は、キューバ戦の敗因に「チーム全体の硬さ」を挙げる。5回、ダルビッシュの交代のタイミングについて触れ「先頭に四球を与えたところで交代が考えられた」とした上で「星野監督の決断にも硬さが見えた」と指摘する。
準決勝進出を確実にするためには1次リーグ7試合のうち、5勝が必要。初戦に敗れたことで14日に行われる第2戦の台湾戦は絶対に負けられなくなった。
台湾には昨年のアジア予選でも苦しめられている。一筋縄ではいかない相手、しかも初戦を落としただけに、キューバ戦以上の硬さを露呈してしまう可能性も秘める。
投手陣の公式球への違和感や、チーム全体の硬さを残したままでは勝てない。本来の力を発揮できないまま、まさかの予選敗退という最悪のシナリオも見え始めた。