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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」★即刻入院の年金制度

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提供:週刊実話

 もともと6月に公表されると言われていた公的年金の財政検証が、8月末になってようやく公表された。5年に1度行われる財政検証は、「年金の健康診断」とも呼ばれるが、今回の結果は、即刻入院が必要なほど深刻なものだった。

 将来の見通しは、6パターンに分けて行われたが、年金法で定められた所得代替率50%以上が将来的に確保できたのは、「経済成長と労働参加が進むケース」の3パターンだけだった。所得代替率というのは、厚生年金に40年間フル加入時、現役世代の手取り収入の何%を年金でもらえるのかという数字だ。

 現在の所得代替率は61.7%だが、今後は下がっていき、最も楽観的なケースでも50%ギリギリになる。つまり、現行よりも年金給付が約2割減少するということだ。

 問題はそれだけにとどまらない。「労働参加が進む」というのは、働き続けろということだ。前提となっている65歳から69歳の労働力率をみると、男性は、現状の56.5%が2040年に71.6%と、15.1ポイント高まる想定になっている。女性は、現状の35.0%から54.1%へと19.1ポイントも上がっている。つまり、男性の7割以上、女性の過半数が70歳まで働き続けない限り、年金制度は維持できないのだ。

 さらに恐ろしいことは、男性の70歳から75歳の労働力率も、49.1%にまで高まると見込んでいる。男性の半数は、75歳まで働かないといけないのだ。現在の男性の健康寿命は72歳だ。この想定だと、悠々自適の期間がなくなるどころか、介護施設から働きに出るという想定になっている。こんなあり得ない想定をして、「年金制度が維持できる」というのは、詐欺に近い。年金の支給開始年齢を実質的に遅らせることによって年金制度の破たんを防ぐというやり方は、もはや完全に“限界を迎えた”と言えるだろう。いますぐ公的年金制度の抜本的な見直しが求められているのだ。

 それでは具体的にどうしたらよいか。所得代替率50%を変えないとすれば、方法は2つのみ。「現役世代の負担を引き上げる」か「財政資金を投入する」かだ。

 ただ、日本では個人が支払う社会保険料は、厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険等の社会保険全体で年収の15%に達しており、負担は限界にきている。現に厚生年金保険料率は、一昨年で頭打ちになっている。そこで参考になるのが、スウェーデンだ。スウェーデンでは、個人の社会保険料負担は収入の7%だが、企業負担は28.6%(一般賃金税を含めると33%)になっている。つまりスウェーデンの社会保険料は、個人負担が日本の半分で、企業負担は2倍だ。その意味で、企業負担率を引き上げる余地はまだ大きいと言えるが、そうした意見は、日本ではまったく出ていない。

 年金破たんを防ぐもう1つの方法は、財政資金の投入だが、その財源として消費税の引き上げを挙げる論者が多い。だが、消費税を引き上げたら、消費が落ちるので、経済破たんの原因になる。私は、赤字国債を発行して、それを日銀が買い取り、通貨発行益を活用して年金を支えるのがベストと考えているが、そうした方法も含めて、いますぐ対策を考えるべきだ。年金制度は、即手術が必要な瀕死の重傷だからだ。

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