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出てこい! ニッポン埋蔵金 発掘最前線(10)

 2月の末、久々にアメリカから“お宝”発見のニュースが飛び込んできた。かつてゴールドラッシュに沸いたカリフォルニア州北部の民家の敷地内で、1800年代の金貨1400枚以上が見つかったのだ。時価総額1千万ドル(約10億円)といい、地下から掘り出されたものとしてはアメリカ史上最高。どうやら、鉱山経営で財をなした成金の隠し財産とみられる。
 日本でも、そろそろ景気のいい話が聞かれてもよさそうだが、いくつかの有望地のうち、今回は北海道網走郡美幌町を取り上げる。前週に続いて旧日本軍の隠匿財宝だ。

 舞台は現在、陸上自衛隊の駐屯地が置かれているところで、終戦まで旧日本海軍の航空基地があった。滑走路をはじめ、司令部や格納庫などの地上施設の他、飛行機やトラックが出入りできる大規模な地下壕が掘られていた。戦後、GHQによって地下への入り口が爆破されてしまったので、全容は謎に包まれているが、中にとてつもない秘宝が隠されている。見つかれば、値打ちはカリフォルニアの金貨の比ではない。
 筆者の手元には、村岡治美という人物の手記がある。彼が美幌の探索を始めた動機については謎の部分もあるが、本人の実体験に基づくものだけに、実に生々しく興味深い。

 旧日本陸軍の航空中尉だった村岡氏は、昭和19年5月、上官の肥佐多少佐と2人で16人乗りの貨物兼用軍用機に乗り込み、北京の飛行場を飛び立った。機内には7個の軍用行李が積み込まれていた。長さ1.2メートル、幅と深さが約50センチで、運ぶのに3、4人がかりだったから、重さは70〜80キロと推定された。
 最初に着陸したのは中国大陸の南にある海南島。ここで給油し、日本兵6名を乗せて台湾へ向かった。高雄市の飛行場に着陸したとき、村岡中尉は気になっていた荷物について、初めて上官に問いただした。
 「行李の中身は何ですか? これからどうするのでありますか?」
 なかなか返事はなかったが、同じ質問を三度繰り返した後に、ようやくこう言われた。
 「これから寿山へ行き、行李を埋める。中身はプラチナ塊のほか北京原人の化石骨などだが、絶対に口外してはならぬ」
 村岡中尉は驚愕した。北京原人の化石骨…。北京郊外の周口店遺跡で発掘され、研究のために納められていた同市内の協和医学院から忽然と姿を消し、行方不明のままになっている世界の至宝だ。

 寿山は高雄の軍要塞内にあった。海に近い見晴らしのいいところで、現在は公園になっている。8人で2日かけて穴を掘り、行李を埋めると、村岡中尉は任務で北ボルネオへ飛び立った。6人の日本兵はビルマ戦線に向かい、確実に全員戦死している。肥佐多少佐はその後、間もなく高雄で病死した。
 村岡中尉も北ボルネオで危うく命を落とすところだった。搭乗機の燃料が切れ、不時着して負傷し、気を失っているところを現地人に助けられたのである。そして帰国し、入院加療中に終戦を迎える。

 郷里の佐賀県太良町で安穏な日々を過ごしていた村岡氏は、昭和24年に突然、台湾政府から召喚を受けた。隠匿物資の埋蔵に関する情報が、どのようなルートで伝わったかは全くわからないが、ともかく相手は、秘密を知る人間が1人だけ生存していることを突き止めたのだ。
 しかし、いろいろな事情で村岡氏はすぐには渡台できず、ようやく寿山を訪れたのは、それから37年後の昭和61年のことだった。ところが、埋めたはずの場所から軍用行李は消え失せていた。誰かが掘り出したに違いない。

 帰国後、村岡氏は躍起になって行李の行方を調べ始めた。戦時中の中国と台湾の事情を知る旧陸海軍関係者を訪ね歩いたが成果はなく、ようやく防衛庁(現防衛省)の資料室に保管されていた美幌の第41海軍航空廠に関する資料の中に、それに結びつきそうな暗号めいた記述を見つけた。また、偶然にも東京の知人宅で出会った網走出身の人物から、「終戦後、台湾から輸送機で7個の軍用行李が運ばれてきて、美幌のどこかに隠された」ということを聞かされ、「それだ!」と確信するに至った。
 翌昭和62年、村岡氏は旧海軍航空廠跡一帯の試掘権を出願し受理された。対象は金銀銅、水銀、けい石となっている。なぜこのような出願をしたのか疑問だが、鉱区権や試掘権は誰の土地であろうと設定できるので、とりあえずツバをつけておこうという考えだったのだろう。(続く)

トレジャーハンター・八重野充弘
(やえのみつひろ)=1947年熊本市生まれ。日本各地に眠る埋蔵金を求め、全国を駆け回って40年を誇るトレジャーハンターの第一人者。1978年『日本トレジャーハンティングクラブ』を結成し代表を務める。作家・科学ジャーナリスト。

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