衣料不況で苦しんでいるのは同社だけではない。信用調査会社によれば、'16年上期のアパレル関連企業の倒産件数は前年同期比7%増の205件。理由は、円安での仕入れコスト高騰や中国の不況、人件費高騰の影響とされる。
「海外観光客のインバウンド消費も落ち込み、百貨店向けアパレルも四苦八苦です。『オンワード』、『三陽商会』などの大手も、2000軒弱の店舗閉鎖でこの不況を乗り越えようと躍起です」(アパレル関係者)
そんな中、ユニクロに次いでナンバー2の衣料大手、「しまむら」グループ(本社・さいたま市)が1人絶好調だという。
「しまむら」の決算について、経営アナリストがこう解説する。
「『しまむら』は'17年2月の対前年比営業利益で15.8%増の462億円を見込んでいます。実は『しまむら』は、'14年と'15年、上場来初めて2期連続減益に落ち込み、大きなダメージを受けていた。ところが、'16年2月期の連結業績は営業利益が前期比8.4%増の399億円と、3年ぶりに営業増益に転じ、さらに来年2月期は過去最高益を予測している。つまり、昨年、劇的な盛り返しがあったのです」
いったい「しまむら」に何があったのか。
「一時『しまむら』と言えば低価格衣料で“デフレの勝ち組”として君臨し“シマラー”という言葉まで誕生したほどですが、'14年の8%への消費税増税後、競合他社が相次いで値上げする中でも、低価格路線を維持。結果として、不良在庫の値下げ処分が増加し、粗利率の悪化で業績が下がって瀬戸際まで追い詰められたのです。そんな中、野中正人社長自ら先陣を切り“いい商品を開発して品揃えをよくすれば必ず売れる”と、改めて商品開発に力を入れたといいます」(経営アナリスト)
そこへ来て、'15年秋冬シーズン、『裏地あったかパンツ』(税込3900円)が爆発的にヒット。'15年度は110万本を売りさばいたのだ。
「しまむら」企画室担当者は、こう言う。
「デフレでモノが売れないと言っても、当時、私たちはそうは捉えていませんでした。消費者は不要なものは買わないが、本当に必要なもの、いいものは多少高くても売れると考えていました。そして当時、国内であるようでなかったのがデニムの裏起毛商品。デニムはお洒落だが、冬は冷たいし寒い。だから、中にタイツを履いて着用している人も多かった。それを1枚で冬もすごせ、しかもファッショナブル。高品質にもこだわりました」
「しまむら」のV字回復は確かに『裏地あったかパンツ』の効果が大きい。しかし、その商品が生み出された背景には経営方針のダイナミックな軌道修正があったからだともいう。
経営コンサルタントが指摘する。
「以前の『しまむら』は、少量多品種での低価格販売。売り切れご免で追加生産しないモデルで急成長した。しかし、単に低価格のみでは消費者の消費マインドが動かなくなり、加えて店舗数はグループで2000店を突破し、商品部長がバイヤーと商品管理コントローラー両方を1人で管轄していたため、増え続ける店舗に目が行き届かなくなった。それが、企業活力にダメージを与えていたのです」
そこで、機構改革で部長の機能を分離し、さらにIT活用の強化で在庫管理や発注の自動化を進めた。そのため、今では店舗間の商品移送指示の7、8割をコンピューターが出せるようになり、企業全体のパワーアップが図られたという。
事務IT化で余力の出たスタッフは「売れそうなコア商品開発」に尽力し、子供服、ベビー用品、シルバー層などへのアプローチも強める。
「これに『ユニクロ』や同業他社も刺激を受けているはずです。『ユニクロ』などはかつて、フリースやヒートテックなどのオリジナル商品開発で急成長した。他のアパレルも今後はオリジナリティーがポイント。そのことで第二、第三の『しまむら』誕生が衣料品業界全体の底上げになれば、日本経済も上昇につながります」(アパレル関係者)
しかし、「しまむら」などには新たな心配の種もある。ここにきてのトランプ新政権への動きで、再び円安にぶれ始めていることだ。海外生産が主の衣料品業界だけに、円安は大ダメージを受けやすい。こうした海外動向を見ながらの衣料品サバイバル競争は、今後、さらに激しさを増しそうだ。