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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 消費増税は法人減税のためだった

 6月13日、安倍総理は経済財政諮問会議を開き、「骨太の方針」の素案をまとめた。今回安倍総理が示した一番大きな政策は、現在35.64%となっている法人税の実効税率を、数年以内に20%台まで引き下げるとしたことだ。
 法人税は、1%あたり4000億円の税収をもたらしているから、今後、法人税の基本税率を6%引き下げるとなると、2兆4000億円もの減税を行うことになる。企業はすでに、今年度から復興特別法人税の前倒し廃止によって、1兆円減税されているから、政府は、合計3兆4000億円も、法人を減税することにしたのだ。

 消費税を8%に引き上げたことによる増税額は4兆6900億円だったから、消費税増税によって得られた税収の72%が法人減税で消える計算になる。
 なぜ「財政が厳しい」と言いながら、安倍政権は法人減税を進めるのか。表向きの理由は、「グローバル競争が激しくなる中で、日本での企業立地を確保するために、税率の引き下げが不可欠」だということだ。法人税率が企業立地に影響を与えるか否かは、学者の間でも意見が分かれているが、私は、法人税率はほとんど影響を与えないと思う。

 財務省のHPによると、アメリカの実効税率は、日本より5.11%も高い。もし、本当に法人税率が高いと企業が海外に流出するのなら、アメリカは空洞化しているはずだが、そんな事実はまったくない。
 安倍政権は、実効税率をドイツ(29.55%)や中国(25.00%)並みに引き下げたいとしているが、これも誤っている。欧州の法人税率は総じて日本よりも低いが、欧州は企業に対し法人税とは別に社会保障税をかけている。これを加えれば、日本の法人税が高いことは、まったくないのだ。

 では、何のために法人減税をやるのか。それは安倍政権を支える大手企業、財界を喜ばせるためだろう。安倍総理が成長戦略の中で、引き上げようとしているのは、勝ち組企業だけだ。その証拠に今回の法人減税の減収分を確保するために、将来的に課税ベースの拡大を図るという。その実態は、外形標準課税の導入だ。
 外形標準課税とは、企業の利益に課税するのではなく、付加価値額や資本金額に対して課税したりするものだ。すでに日本でも法人事業税の算定の際に一部利用されている。この課税方式の一番の特徴は、赤字法人にも課税が発生するということだ。

 中小企業には赤字企業が圧倒的に多いから、法人税改革の結果、大企業は減税になり、中小企業は増税になる。中小企業は、自民党に献金をしてくれるわけでもないし、戦闘機や原発を作ってくれるわけでもない。だから大企業に集約をしたほうが国全体としても生産性が上がると考えているのだろう。
 現にアメリカ経済は大企業中心の産業組織になっているし、韓国も'97年の金融危機以降、IMF管理下で構造改革を行い、大企業に生産を集約した。結果、韓国経済はV字回復を果たした。
 ただ、韓国は確かに奇跡の経済回復を果たしたが、それが貧富の差の大きな拡大をもたらした。しかし、そんなことはどうでもいい。富裕層だけが、さらに豊かになればよいと考えているのだろう。

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