実際、閣議後に安倍総理は記者会見をせず、会見を行った菅官房長官も、「リーマンショック級の経済変動がなければ実施するというのは過去の答弁通り」、「最終的な決断は、状況を見ながら判断する」と、むしろ消費税増税が決定事項ではないことを強調した。
それでは、なぜ多くのメディアが「消費増税決定」と報じたのか。そこには、財務省得意のメディア・コントロールがあったとみられる。そしてそれは、実にうまく機能した。
閣議の直後から、私のところにも、週刊誌などから取材依頼が殺到した。その多くが、「消費増税前に、買いだめしておくとよいものは何ですか」というものだった。念のため触れておくと、買いだめしてよいのは、定期券とタバコくらいしかない。食料品は、税率が据え置きだし、自動車や住宅は、増税後に減税拡充が行われる予定だ。また、消費増税で日本経済がデフレに戻ってしまう可能性が高いので、余計なものを買うと、かえって損をする。ただ、こうした増税対策をメディアが騒げば騒ぐほど、消費税の増税が既成事実化してしまう。財務省の狙いは、まさにそこにあったのではないだろうか。
ただ、私はまだ、安倍総理が消費増税の延期に出る可能性のほうが高いと考えている。もちろん、その理由は、来年夏の参議院選挙だ。立憲民主、共産、社民、自由の4党に加え、国民民主、日本維新の会も、今回の消費増税に反対の態度を明らかにしている。「消費増税凍結」で野党一致の共闘態勢が取られれば、野党に風が吹き、安倍政権は追い詰められてしまう。それを打ち破ろうと思ったら、自民党も「増税延期」を言わざるを得なくなるのだ。
これは、私だけが言っているのではない。立憲民主党の枝野代表は、10月15日夕方の記者会見で、「参院選挙の直前にやっぱり上げないと言い出すのではないかという見方がある」として、安倍総理の三度目の消費税引き上げ延期の可能性を示唆した。さらに野田佳彦前総理も20日のよみうりテレビの番組で「二度あることは三度ある」と、再延期が行われる見通しを述べている。
しかし、それはひどい話だ。軽減税率の導入となれば、情報システムの更新をはじめ、様々な準備を大きなコストをかけて行わなければならない。それで、増税凍結ということになれば、それらの投資がすべて無駄になってしまうからだ。
もしかすると、今回の騒動は、「軽減税率つぶし」なのかもしれない。これから、準備が本格化するなかで、いかに軽減税率が煩雑で、負担の大きなものであるのかが、国民に浸透していくからだ。いずれにせよ、いま国民にとって一番望ましい対策は、参議院選挙までは、消費税対応の動きを一切しないことだろう。