「肝炎ウイルスが怖い。特にA、E型肝炎は、血液を介して感染する非経口のB、C、D型と違い、食べ物を介しての経口感染が特徴です。また、客の中にはインフルエンザのキャリア(保菌者)がいるかもしれない。これは飛沫感染だが、前の客の食べ残しに咳払いの飛沫がかかったり、唾液がついた箸で触れたりしていると問題だ。とにかく食べ残しの使い回しは、あってはならないこと」
最近は「年寄りだけでなく若者の間にも結核菌の保菌者が増えている」うえ、「ノロウイルスによる感染性胃腸炎も心配」だという。ほかにも、やっかいな感染症の持ち主が客の中にいるかもしれない。
トンカツ店チェーン(前述)が、使い回しの事実を東京・中央区保健所に報告したのも「深刻な事態に備えて」のことだった。
この数年間、韓国ではインフルエンザ感染が問題になるたびに、客の食べ残しが感染源と疑われた。無料サービスのキムチ類、生野菜類のほとんどが使い回しされてきたからだ。
テレビ局は、アルバイト従業員に化けたリポーターを飲食店に潜入させ、使い回しの現場を隠しカメラで撮影。それが放映されたことで騒ぎが大きくなり、ついに国は食品衛生法を改正、使い回しを禁止した。
日本もそれくらいしないと、先の保健所職員が言うように、「深刻な事態」に陥ってしまうかもしれない。
使い回しされる宴会メニューの数々は次号でも取り上げるが、その前に注意すべきは宴会の帰り道だ。
ひと頃と比べると、都内ではめっきり減ったが、盛り場の近くでラーメン屋台を見かけると、つい入ってみたくなるものだ。ところが中には、不衛生極まりない屋台があることを忘れてはいけない。
屋台と深い縁がある関東のテキヤ関係者によれば、「スープの使い回しは常識」という。
「屋台でいちばん大事なのは水。客がその次で、客でいちばん困るのは、スープをぜんぶ飲んじゃうヤツ。スープを少しでも残してくれる客は神様だ。残ったスープは足元のポリバケツに流すが、それは捨てるフリをするだけで、実際は取り置きしている。フタで客に隠してあるが、実はステンレスのザルがバケツに入れてあるんだ」
ザルが麺やネギなどの食べカスを取り除き、流れ落ちたスープがまた使われる。
「客足が切れず、水が切れたときは、雑巾を洗う専用の水でスープを増やす。粉スープと多めの味の素で味を濃くすれば、わかりっこない。ほとんど酔った客だから」
なにせ雑巾水での増量スープだから、胃の中は増菌必至。下痢、腹痛で済むならまだしも、だれかのA型、E型肝炎ウイルスを飲み込む危険もある。6カ月以上経っても治らない慢性肝炎にでもなれば、1杯数百円のラーメンが何百倍も高いものになってしまう。
宴会が増えるにつれ、わが身に危うさが迫ってくる。