私はこれまで、消費税率の引き上げは絶対にないと考えていた。決裁文書の改ざんの責任がある麻生財務大臣を留任させたことで、若干嫌な感じはしていたが、それでもありえないと考えていた。消費税率を上げられる経済環境では、まったくないからだ。
米中貿易戦争によって、世界経済に大きな悪影響が出ることが間違いないのは、日米の株価急落が明確に示している。9月に米国が中国に対して課した制裁関税の第3弾は、家具、食料品、革製品などの中国以外の国から調達すると、割高になる消費財が対象だ。当然、来年以降の米国の物価が上昇して、米国の消費に深刻な影響が出てくる。株式市場は、それを先取りして織り込んだのだ。米国の景気が失速すれば、日本は当然、道連れになる。
それだけではない。景気循環上、周期10年のジュグラーサイクルは、今年ピークアウトし、周期5年のキッチンサイクルも来年ピークアウトする。つまり、景気循環上も、来年秋以降は不況に突入するのだ。
さらに、オリンピック関連の建設需要も、来年でピークアウトする。
これだけの悪い材料が揃っているなかで、消費税率を引き上げたら、日本経済が奈落の底に転落するのは明らかだ。2020年の東京五輪を、大不況のなかで迎えることになるだろう。
これまで、少なくとも財政・金融政策に関しては、正しい政策を採ってきた安倍総理が、なぜこんな間違いを犯したのか。もしかすると、それは政治日程にあるのかもしれない。来年の春から夏にかけて、統一地方選挙と参議院選挙が行われる。増税は10月からだから、その時期には、経済への悪影響は出ていない。参議院選挙のときには、増税前の駆け込み需要で、むしろ景気はよくなる可能性さえあるのだ。
もちろん、そのすぐ先には崖からの転落が待っている。前回の消費税3%引き上げでは、消費が3%落ちて、経済はマイナス成長に陥った。同じことが、今回も起こるだろう。
ただ、安倍総理の任期は3年だ。その間に、もう国政選挙は行われない。日本経済がどんなにひどい状況に陥っても、安倍政権が揺らぐことはないのだ。
こうなったら、唯一の希望は、参議院選挙で野党が結束することだと思う。消費税率の引下げでは折り合えなくても、消費税引き上げ凍結で折り合うことは、十分可能だろう。自民党総裁選で、安倍政権への批判が相当根強いことは、すでに明らかになっている。そこに消費税率の引き上げの是非で、国民の信を問えば、野党にも十分勝ち目が出てくるだろう。
これまでの安倍政権の選挙は、自民党がミクロ面での弱肉強食と、マクロ面での財政金融緩和を訴え、野党がミクロ面での平等政策と財政金融引き締めを訴えるという「ねじれ」が生じていた。しかし、今回の増税決定で、来年の参議院議員選挙では、与党が庶民増税かつ弱肉強食政策、野党が増税否定かつ平等政策という、本来の左右対立の政策選択を国民に示せる可能性が出てきた。それが可能かどうかは、野党の連携に向けた協議にかかっているのだ。