これまで政府は「憲法上、他国に脅威を与えるような攻撃的兵器の保有は許されない」とし、その例として「大陸間弾道ミサイル、長距離爆撃機、攻撃型空母」の3つを挙げ、これらの保有を禁じてきたが、次期大綱では「短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築」としてF35B戦闘機(ステルス機=1機100億円)の導入を打ち出し、「現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる」として、今回、護衛艦『いずも』型の空母化に踏み切った。
空母保有は、海上自衛隊にとって創設以来の夢とはいえ、近年の海上自衛隊は慢性的な予算不足に悩み、護衛艦『いずも』型の空母化に巨額の予算を回す余力はなかった。しかし、現在『いずも』が搭載するヘリコプターを戦闘機、例えばF35Bに積み替えれば『いずも』はたちまち禁止されているはずの“攻撃型空母”に変身することになる。
海上自衛隊は1990年代から「空母の形をした護衛艦」を運用してきた。最初は『おおすみ』だが、政府の見解は「空母の形をした輸送船」だった。
これに倣い『いずも』の政府見解は「空母の形をした護衛艦」である。『いずも』は総排水量1万9000トン、長さ248メートルで、帝国海軍の空母『倉龍』(排水量1万5000トン、長さ227メートル)よりも大きい。
「海上自衛隊は『おおすみ』を建造する際、空母のように甲板が平らな全通甲板とし、艦橋を右舷に寄せて操縦性などを確保している。次に同じ全通甲板を持つヘリコプター搭載護衛艦『ひゅうが』を建造。さらに『ひゅうが』型の甲板を51メートル延長したのが『いずも』で、空母型艦艇の完成と相成ったわけです」(軍事ジャーナリスト)
日本は当然のことながら「空母」を持つということの解釈を「攻撃」ではなく「専守防衛」であると述べている。『いずも』を海に浮かべるだけで動かさない、攻撃されてから動くとでも言いたいのだろうか。この解釈が本心なら膨大な国費を投入して海に浮かぶ“展示品”を造っただけではないか。
「岩屋毅防衛相は記者会見で、『いずも』は攻撃型空母ではないのかと問われ、『他に母基地がある航空機を時々の任務に応じて搭載するというのは、決して攻撃型空母には当たらない』と述べています。が、横須賀基地の米空母『ロナルド・レーガン』の戦闘機など艦載機は、普段は山口・岩国基地に置かれ、年2回程度の出航時のみに空母に搭載されます。『いずも』の運用方法と同じですが、同艦は“攻撃型空母”です」(同)
現大綱で護衛艦は54隻とされているが、現有は47隻にすぎない。費用の関係で、いつまでたっても54隻にならないので、18年度防衛費からは護衛艦と掃海艇の機能を併せ持った小型の護衛艦を毎年2隻ずつ建造する一方、30年で退役となる護衛艦の寿命を40年に延ばす「艦齢延伸」も毎年数隻ずつ行っている。
「空母は攻撃には絶大な威力を発揮しますが、防御には弱く、相手からの攻撃に対しては弱い。護衛艦や潜水艦による護衛が必要となることから、空母だけでは、日本防衛の場合、『空母化すれば抑止力になる』という主張は、より強力な軍事力を持つ中ロなどの敵方からすれば笑い物でしょうね。そもそも空母とは、海上を速やかに動く機動打撃力ですから、空母を造るということは『機動打撃群』を造らなければ意味がありません。費用のない自衛隊にとって造るより運用の方に莫大な費用がかかる打撃群を、日本政府が、現憲法下で本気で創設する気があるか、今後、問われるのです」(同)
日本のように四方を海に囲まれた海洋国家の自衛に関しては、200年前に同じく海洋国家イギリスのキャプテン・ドレークが大陸のナポレオンと戦った経験から次の通り明確に言っている。
《イギリスの防衛ライン(自衛権の発動ライン)はどこか。英国の海岸か? 英国と大陸の間の海上か? いやどこでもない。英国の防衛ラインは大陸にある敵基地とその後方にある兵站線だ》
空母機動打撃群を創設したからには、海を渡って敵基地を攻撃する戦略爆撃空軍、そして殴り込む海兵隊が必要になる。その気概がない日本は、米軍のF35Bのプラットホームとして『いずも』を活用し、日米一体化のシンボルにしようと考えているのだろう。