「たとえソニーがオリンパスの“民族主義”に配慮して500億円=10%出資で妥協したとしても、これではビジネス上の果実をどこまで得られるかとなると怪しい限り。見返りが配当収入程度ならばソニーは憤然として席を立つ。当然、交渉決裂です」(前出・関係者)
にわかには信じ難い事情もある。オリンパスとの提携に名乗り出た4社は、投資銀行やメーンバンクを介して接触を重ねてきた。すなわち、双方が直接顔を合わせて交渉すること自体が珍しい。従って今後の交渉には当事者だけでなく、銀行団の思惑も絡む。これが懸念される第3の理由である。
「交渉の最終局面では双方が顔を合わせて詳細を詰めるにしても、そこに至るまでの間は黒子であるべき銀行が“デートの現場”に同行して監視の目を光らせてきたこと自体、通常では考えられません」(同)
なぜ、そうなったのか。この関係者は苦笑する。
「去年の秋、オリンパスはマイケル・ウッドフォード社長(当時)の解任騒動を機に株価が急落し、そのドサクサに紛れて米国のゴールドマン・サックスが大量の空売りを仕掛けて20億円超もボロ儲けしています。これに激怒した政府=金融庁が『どんなことがあってもオリンパスをハゲタカ外資に渡すな』とゲキを飛ばした。要するに外資による乗っ取り防止の厳命にほかなりません。だからこそ銀行は交渉の一部始終をチェックし、オリンパスのガードマン役に徹してきたということ。ソニーにしてもオリンパスにしても、まだ相手の本音を聞き出していない以上、熱が一遍に冷めないとも限らないのです」
これでソニーとの交渉が決裂すれば富士フイルム、テルモが急浮上する。中でもテルモはオリンパス株の2.1%を保有する大株主で、以前からビジネス面での関係が深い。それを踏まえて市場筋は「ソニーこそ当て馬。隠れた本命はテルモじゃないか」と指摘する。
「ソニーはデジカメなどに搭載する画像センサーに800億円を投資する。これを発表したのがオリンパスへの出資報道があった6月22日というのが、どうもクサい。ただでさえ業績悪化で資金力に乏しい会社が、オリンパスと合わせて1300億円も拠出するのは正直厳しい。ましてパナソニックと有機ELパネルの共同生産で提携したばかりとあってはなおさらです」
“混迷レース”に浮上したソニーが野心をあらわにすればするほど、ドンデン返しの不気味さが増すようだ。