ヨーカ堂の正社員半減は、この苦境を脱するための最後の手段だ。ただし、正社員を減らす代わりに、パートタイマーを7000人採用して、3万6000人体制とする。この結果、パートタイマーの比率は、現在の75%から90%に上がり、人件費は100億円削減されるという。
実は、流通業全体のパートタイマー増加は、いまに始まったことではない。昭和30年代には、日本の町には必ず商店街があって、町の人でにぎわっていた。そこにスーパーマーケットが登場し、安売りで顧客を奪っていった。さらに規制緩和の影響で、スーパーマーケットがどんどん大型化し、映画館や本屋、ファストフード店などを併設するようになった。当然、商店街は空洞化し、日本中がシャッター通りばかりになってしまったのだ。
商店街の商店主は、まがりなりにも一国一城の城主だった。それが、スーパーマーケットの店員として働かざるを得なくなったのだ。それは働き方に変化をもたらす。商店街は年末になると、一斉に店を閉めて長期の休みに入ったが、スーパーの店員になると元日から出勤しなければならない。家族団欒の時間が失われてしまったのだ。そして、今回のパートタイマー9割だ。ヨーカ堂の正社員は、これまで1人で3人のパートの面倒をみればよかった。これからは9人をみなければならない。激務は必至だ。それが嫌なら家族全員でパートとして働くしかない。
そうなる家族も多いだろう。実は、非正社員化の波は、数十年続いているトレンドだ。たとえば、「労働力調査」によると、今年1〜3月期の非正社員比率は35.1%だったが、10年前は28.7%、20年前は20.5%、25年前は17.8%だった。
つまり、非正社員比率はこの25年間で倍増していることになる。ただ、私は無制限に非正社員比率が上がることはないと考えていた。1人の正社員が面倒をみられる非正社員にはおのずと限度があるからだ。実際、3年前には非正社員の上昇に歯止めがかかる兆候もみられた。しかし、再び非正社員の増勢が強まっているのは、イトーヨーカ堂のような事例が広がっているからだろう。
非正社員の増加は、格差の拡大に直結するだけではない。社会的に立場の弱い人を直撃する。
たとえば今年1〜3月期の15〜24歳の非正社員比率は、48.8%と、ほぼ半数を占めている。若者が正社員になることが難しくなっているのだ。
それだけではない。男女雇用機会均等法が施行された'86年に女性の正社員の数は989万人だった。それが'97年には1172万人まで183万人も増えた。ところがその後、減少傾向となり、今年は1031万人と141万人も減ってしまったのだ。この間、非正社員の女性は一貫して増えている。果たしてこうした世の中が、本当に望ましいものなのだろうか。