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〈企業・経済深層レポート〉 倒産件数が3年連続増加 好調なアニメ業界で製作会社が苦しむ裏事情

 日本のアニメ業界が好調だ。アニメ業界団体である日本動画協会が発行している『アニメ産業レポート2018』によると、2017年のアニメ業界の市場規模は前年比8%増の2兆1527億円となり、5年連続で最高額を更新している。新聞社の総売上高が約1兆7000億円ということからも、アニメ市場がいかに大きくなっているのかが分かる。

 「この数値は、関連グッズや音楽なども含まれますが、制作に絞った純粋なアニメ業界の市場でも前年比148億円増の2444億円となり、過去最高となっています」(アニメ誌記者)

 全体としては好調なアニメ業界だが、一方では、アニメ制作会社が苦境に立たされている。アニメ関係者によると「アニメ制作会社の倒産は、2016年から増え続けている」という。

 「2018年には11件もの制作会社が倒産しています。絶対数は少ないですが、これは2017年の倒産件数(6件)と比較すると、約2倍の水準です」

 しかも、倒産した制作会社には、有名なアニメを手掛けている制作会社も多い。

 例えば、負債総額2億5000万円で2018年に倒産したプロダクションアイムズ。業界大手のアニメ制作会社「AIC」のプロデューサーを務めた松嵜義之氏や黄樹弐悠氏が中心となり2013年に作られた期待の制作会社だった。

 「プロダクションアイムズは、『いなり、こんこん、恋いろは。』、『ハイスクール・フリート』といった人気作品を送り出すなど、業界ではクオリティーの高さでも知られていました。まさか倒産するなんて、思いもしませんでしたね」(アニメ制作会社社員)

 倒産理由は競争激化に伴う売上低迷が一番大きかったという。そもそも、市場規模が拡大しているアニメ業界で競争が激化したのはなぜなのか。

 「アニメ制作会社数は、2000年頃から新興制作企業の設立が相次ぎ、1.5〜2倍にまで増えています。それは市場が右肩上がりのための新規参入でした。しかし、こうした制作会社の増加が、皮肉にも受注競争や制作単価の上昇抑制に繋がり、市場はレッドオーシャン化してしまったのです」(経営コンサルタント)

 民間信用調査会社の調べでは、’17年に増収となったアニメ制作会社は約40%、利益面でも、増益した会社が約55%を占めた。しかし、約20%の会社は赤字で、5社に1社は採算が取れていない。

 「小規模の制作会社は人件費の比重が大手よりも高くなります。それでも人手が足りず、制作スケジュールが遅延して追加費用が発生することも業界ではよくあること。小規模な制作会社は、追加費用が発生しただけで経営がすぐ傾いてしまうのです。それでも、採算を合わせるためには、人件費をかけないようにするしかないので、従業員に無償で働いてもらうしかないのです」(同)

 アニメ業界では、過酷な労働環境もクローズアップされ始めている。

 「日本テレビの子会社で、『サマーウォーズ』や『時をかける少女』、『カードキャプターさくら』などの人気アニメ作品を手がけてきた大手アニメ制作会社『マッドハウス』では、社員の訴えから1カ月の労働時間が393時間になるという、上限を超えた時間外労働があったとして、今年4月に新宿労働基準監督署より是正勧告を受ける事態が発生しています。小規模な制作会社では、もっと厳しいでしょうね」(同)

 最近はアニメーション映画の制作に製作委員会方式をとることが多い。製作委員会方式とは、作品を作るための資金調達の際に、一つの企業による単独出資ではなく、複数の企業に出資してもらう方式のこと。アニメ作品の制作には多額の費用を要するため、ヒットしなかった場合に多大な負債を抱えるリスクが存在するが、製作委員会方式は、このリスクを分散させることができるのが大きなメリットである。しかし、これもアニメ制作会社を苦しめている。

 「製作委員会方式をとる場合、作品の権利、版権は出資企業が持つことになり、アニメ制作会社はただ作るだけ。つまり、頑張って制作した作品がヒットしても、制作現場にはほとんど利益が還元されません」

 さらにアニメ業界では、日本より安い人件費でアニメを制作できる韓国、中国に依頼するケースも増えているという。

 「結果、制作会社の受注争奪戦もヒートアップしています。また、中国のアニメ市場は3兆円市場となり、すでに日本を大きく超え、クオリティーも高くなっています。今後も中国の制作会社に依頼するケースは、増えることが予想されます」(アニメ企業関係者)

 日本のアニメ業界が好調なのは事実だが、今後も制作会社の倒産は止まらなそうだ。

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