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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第299回 移民卑劣なコンセッション

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提供:週刊実話

 移民法(出入国管理法)が衆議院法務委員会を通ったと思ったら、今度は参院厚生労働委員会で、水道民営化法(水道法改正案)が可決された。今後、衆院の審議を経て、今国会で成立する予定となっている。安倍政権のグローバリズムのトリニティ(緊縮財政、規制緩和、自由貿易の政策パッケージ)は、とどまるところを知らない。

 水道民営化については、諸外国で失敗し、2000年から14年にかけ、35カ国で180もの「再公営化」の事例がある。ところが、厚生労働省は「なぜか」先進国5カ国と途上国5カ国に対象を絞り、かつ’07年から’10年までの事例しか報告しておらず、野党側が再調査を求める状況になっている。

 さて、水道民営化は「コンセッション方式」で実施される。水道民営化を批判すると、
「コンセッション方式で、水道サービスの資産はこれまで通り自治体が持ち続け、運営権のみを民間に売却する方式であるから問題ない」
 といった反論を受けるが、話は逆なのだ。コンセッション方式だからこそ、なおさら問題なのである。

 11月29日、参院厚生労働委員会で、宮城県の村井嘉浩知事が民営化推進派の立場で、
「現行法は完全民営化しか想定していない。法改正すれば行政が最後まで責任を負える」
 と、発言したが、実は知事の発言に今回のコンセッション方式のポイントがある。

 コンセッション方式とは、水道サービスのハードウェアについては、これまで通り地方自治体が持ち、その上で「水道サービス」のみを民間事業が提供するという民営化手法だ。そもそも、過去の日本で水道の民営化が進まなかった理由は何だろうか。もちろん、わが国が世界屈指の「自然災害大国」であるためだ。

 電力事業のように、水道のハードウェアを含むシステム全体を民営化すると、災害時の復旧責任は、参入した民間企業が負わなければならない。

 電力各社は「電気事業法」の第十八条「供給義務等」により、供給区域におけるユニバーサルなサービス提供を義務付けられている。無論、電力会社は発電所、送電網、変電所等、電力供給に必要な資産を自前で保有している。

 電力供給に必要なすべては、電力会社がリスク承知で「維持」しなければならない。だからこそ災害発生時に、電力会社は「電気事業法」の下で、自らユニバーサルサービスの回復を図る。災害時に、わが国において停電が速やかに復旧していくのは、電力会社が「電力マン」としての誇りの下で、利益度外視で「国民の電力を守る」ために働いてくれるおかげなのだ。

 ところが、水道民営化はコンセッション、つまりは新規参入した民間事業者は、設備の維持管理について一切責任を負わない。何しろ、自分の資産ではないのである。要するに、自然災害時のリスクを自治体に押し付けたまま、美味しい部分だけを「ビジネス」と化す形で進められているのが、現在の水道法改正案なのだ。

 図の通り水道コンセッションの場合、水道管や取水施設、貯水施設、導水施設、浄水施設、送水施設、配水施設といった水道ネットワークについては、自治体が保有し、かつ災害時の「復旧責任」を負い続ける。民間事業者(水道施設運営事業者)は自治体とコンセッション契約を締結し、運営権に基づき住民に水道サービスを提供し、料金を徴収する。事業者は株式会社であるため、水道「ビジネス」の利益から株主に配当金を、銀行に金利を支払う。

 つまりは、今回のコンセッション方式の民営化は、水道サービスの「ビジネス化」あるいは「金融化」なのだ。特定の株主や銀行の「利益」になるからこそ、日本政府は国民の生命の基盤である水道を「売り飛ばそう」と図っている。

 フランスの水道メジャー「ヴェオリア」などは、日本における水ビジネス展開時に「災害リスク」を負いたくない。だからこその、コンセッション方式なのだ。しかも、水道などの公共部門で民営化を推進する内閣府民間資金等活用事業推進室に、何とヴェオリア社日本法人からの出向職員が勤務していることが判明している。ヴェオリアの社員が内閣府の推進室に入り込み、「自社」のリスクを最小化する形の民営化法案を「書いた」のではないか、と誰でも疑問を持つだろう。

 過去にコンセッション方式で民営化された関西空港は、台風21号の被害が出た際に、民間事業者の関西エアポート(オリックスと仏パンシ・エアポートの合弁)の対応が混乱し、復旧が遅れに遅れた。最終的には、国土交通省が乗り込み、事態を収集する羽目になった。

 水道コンセッションの場合、災害で水道ネットワークが利用不可能になったとしても、民間事業者は一切、責任を負わない。災害時の復旧が遅れるどころか、民間事業者が自治体に対し、
「早く水道を復旧しろ。我々の利益が減る」
 と、怒鳴りつける醜い光景を目にすることになるだろう。

 本気で水道を民営化したいならば、電気事業法ならぬ「水道事業法」を制定し、参入した民間事業者に資産をも買い取らせ、「全責任」を持たせるべきだ。自然災害時の復旧はもちろん、老朽化水道管の交換も含め、すべて民間事業者が責任もって対応するべきであろう。村井知事の言う「完全民営化」の方が、コンセッション方式よりはマシである。とはいえ、民間事業者側は自然災害大国で水道インフラという「リスク」を持つことを拒否する。だからこその、コンセッションという話なのだ。

 そもそも、日本の水道を民営化する必然性はゼロである。その上、安倍政権は民間事業者に資産リスクを持たせない、コンセッション方式で民営化を進めている。「卑劣」以外の感想が浮かばないのは、果たして筆者だけなのだろうか。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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