「今度は頑張ってくださいね」「はいッ、今度は…」。有権者に声を掛けられたモリケンは、指を1本高々と上げて見せた。
真冬に千葉駅前が熱く燃えた。この日、午前11時過ぎ、開けたばかりの事務所を出て、会場となる千葉中央公園へと徒歩で向かったモリケン。来月12日の告示のはるか前となる“第一声”を聞こうと、約1500人の観衆が集まった。
演説は始まる前からモリケンらしさ満載。演説前には約5分間にもわたって会場に和太鼓の生演奏が鳴り響く。勇壮なリズムにモリケンの表情にも徐々に気合がこもった。
「4年前、選挙に負けたあくる日、私は朝4時に目を覚ました。暗かった。寒かった。そして真っ暗な空に向かって私は『よし! 必ず4年後やるゾ』と誓ったんです」
冒頭、前回の敗戦をそう振り返ると、観衆からは早くも拍手が。
「4年間の間に参院や衆院(への出馬)の話もいただいた。でも私は乗らなかった。それは千葉県民の熱い思いに応えたい。それが私の一番の希望だったからです」
沸く観衆を前に、モリケンは「千葉県民のポテンシャルはすごい! これだけのもの東京にもないよ。日本中見渡したってない! 千葉から日本を変えよう」と激励、「絶対私たちはできるんです!」と、観衆を人差し指で打ち抜きながら、中締めした。
英語でいうとイエス、ウイーキャン。アレッ? どこかで聞いたことのあるフレーズだ。そう、ここからのモリケンは急激にあの人の演説に似てきた。「オバマさんの演説を生で聞いてるみたいだった」とは買い物途中に会場に寄ったという千葉市の58歳・主婦の感想。
「私がこれから大きな鯛をさばくとする。『さばいてください』ではダメなんです。さばいてほしければせめてまな板を洗ってください。包丁を研いでください。『頑張りましょう』ではダメなんです。頑張るんです。皆さんと私でやるんです! 私たちならできる!!」
最後に観衆全員と「千葉を日本一にするゾ」の大絶叫で締めると、感動した観衆から、モリケンの大ヒット曲「さらば涙と言おう」の唱和が始まった。これにモリケンは「まいったなあ」と照れ笑いしつつもマイクを握り直し、きっちりとプロののどを披露。千葉県民が降って沸いた「青春」を謳歌した瞬間だった。
モリケンの早すぎる“第一声”にはこんな批判もある。県政に詳しい会社社長は「前回の知事選での敗戦は一にも二にも『準備の遅れ』が原因でしたから。万全の態勢で臨みたいというのは分かるが、他の候補者の陣営からは『フライングだ!』という突っ込みも聞こえてきます。まあ、森田氏のマスコミをうまく利用した戦略へのやっかみ含みですがね」と苦笑い。
県知事選にはほかに関西大教授の白石真澄氏(50)、県議会議員の西尾憲一氏(64)、社会福祉法人理事長の八田英之氏(64、共産推薦)、第3セクター「いすみ鉄道」の元社長、吉田平氏(49、民主県連推薦)が名乗りを上げており、モリケンを含め5人でのデッドヒートが繰り広げられる予定。
しかし、「実質的には森田氏と吉田氏との一騎打ちになるんじゃないかな。『千葉への情熱』だけを熱く訴えているような表の姿とは別に、今回の森田氏は票田への根回しをちゃんと行っている。全国的な人気も鑑みると、森田氏が一歩リードでしょう」(前出・社長)
モリケンはすでに、前回知事選で堂本暁子現知事の支援団体だった県医師会や県歯科医師会など医療系4団体の推薦を取り付けるなど、精力的なあいさつ回りで票田の獲得に成功。また、自民党県議約30人が自主的に立ち上げた「森田健作を支援する県議の会」も始動している。モリケン自身が口にする「無所属ながら超党派での支援」が現実のものとなりつつあるのだ。
ある永田町関係者は「なによりマスコミの使い方がうまい。いざ選挙戦が始まればマスコミは『全候補平等の報道』という原則に縛られて、目立つ一候補に絞った記事は書き難い。ところが昨日のような選挙戦前のイベントならいくらでも書ける。狙いすました“フライング第一声”でしょうね」と見る。
選挙戦が始まってからの「応援演説」にも期待が集まる。「これだけ準備万端で選挙戦を始めたのだから、応援のサプライズゲストももう用意しているはず」(芸能事務所関係者)というわけだ。
“熱さ”ばかりが注目される行動の裏で政治力を発揮するモリケン。長年の夢である知事の椅子へ向けて、「青春の巨匠」は、とっくに猛ダッシュを始めている。
もりた・けんさく 1949年12月16日生まれ、東京都出身。俳優、歌手、元参院・衆院議員。1969年、映画「夕月」で俳優デビュー。71年の日本テレビ系ドラマ「オレは男だ!」の大ヒット以来、イメージが「ザ・青春」に。92年、参議院議員に初当選。98年、衆議院議員初当選。2005年、千葉県知事選に立候補するも、わずか6000票差あまりで現職の堂本暁子知事に惜敗。今年還暦を迎える「青春の巨匠」の県知事リベンジ戦に注目が集まる。