マツダは今年3月期で4期連続の最終赤字を計上し、単独での生き残りは厳しくなっている。2010年末まで30年余にわたって筆頭株主だった米フォードは、4代続けて社長を派遣したが、いまや出資比率を2.1%まで下げ、6月の株主総会では唯一送り込んでいた専務執行役員が退き、これで派遣役員はゼロになる。腐れ縁が切れる上、慢性的な業績低迷とくれば、いつ再編の大嵐に巻き込まれても不思議ではない。
「マツダが社運をかけて独自開発したスカイアクティブは通常のエンジンでハイブリット車並みの低燃費を実現できる新技術で、これを前面採用した多目的スポーツ車『CX-5』は売れ行き絶好調。だからこそライバルにとっては垂涎の的になっている。フィアットが提携したのも、この技術が欲しいからにほかなりません」(業界関係者)
マツダはフィアットとの関係をスポーツカーの開発・生産に向けた業務提携にとどめ、資本提携に踏み込む意思がないことを強調する。しかし、フィアットがマツダの意思を尊重する保証はない。実際、フィアットのセルジオ・マルキオンネ最高経営責任者(CEO)はマツダとの提携発表直後、記者団にマツダ車をフィアット及び傘下のクライスラーの工場で生産する可能性にまで言及した。前出の業界関係者が野心家として知られるマルキオンネCEOの腹の内を喝破する。
「彼は以前、魅力ある提携先としてマツダとスズキの名を挙げていた。スズキに対してはディーゼルエンジンを供給することで合意し、スズキとVWの間に強力なクサビを打ち込んだ。両社の関係は決裂しているため、スズキ株の約2割を握るVWは動くに動けない状態が続いている。そんな罠を仕掛けたマルキオンネCEOにとって、フォードの後ろ盾を失ったマツダなど、どうにでも料理できる子羊の群れぐらいにしか見えないはずです」
欧州でVWと覇を競い合う『フィアット王国』の近未来が透けてくる話だ。
しかしマツダにせよスズキにせよ、長年培ってきた自動車メーカーとしてのプライドがある。いくらフィアットが野心をあらわにしたところで簡単に白旗を掲げるわけがない。果たせるかな市場にはこの春以来、耳を疑う驚愕情報がくすぶっている。イワク「マツダとスズキが戦略的に提携する。マツダがVWからスズキ株を肩代わりし、両社のにらみ合いを一気に解決することが条件」というのだ。