「2012年から断続的に押し寄せた団塊世代の大量定年に不景気、加えてカジュアル化、クールビズなどの多様化もあって、スーツ市場は総務省調査でも10年前より3割も減少しているのです」(経営コンサルタント)
『洋服の青山』を展開する青山商事の中間決算説明会('17年3月期)でも、紳士服(ビジネス、カジュアル=ビジカジ)の売り上げは10年前から55億円減、毎年5.5億円ずつ減少する厳しい現状を報告している。そのため紳士服各大手は、生き残りをかけての多角化を図っているのだという。
各社、どんな方向性を打ち出しているのか。
青山商事の他業種参入と言えば、まず全国180店舗前後を展開する『焼き肉きんぐ』だ。
「100分で3000円を切る食べ放題シリーズで顧客数を増やしている焼き肉店。こちらは成功組と言えるでしょう」(業界関係者)
同じく同社傘下のグループ会社としては、100円ショップ大手の「大創産業」と展開し全国で120店舗近くを構える『100YENPLAZA』。さらに、思い切った他業種参入の典型としては、'15年末に買収した『ミスターミニット』がある。
「主要駅構内で靴やバッグの修理、合鍵作製などで急速に業績を伸ばしていた『ミスターミニット』(ミニット・アジア・パシフィックが運営)を、'15年12月に146億円を投じて完全子会社化。国内の約300店舗に加え、ニュージーランド、東南アジア、中国など海外にも280店舗近くあり、青山が非スーツ化の割合を高める上で大きな可能性を秘めると思われます。同社は近い将来、非スーツの割合を現在の2割台から4割台にまでもっていくとしています」(同)
青山商事とともに紳士服の大きなシェアを占める『AOKI』を運営するAOKIホールディングスも、非スーツ化の構築を急いでいる。
「他の主要同業社より非スーツ化に積極的に取り組んできたAOKIHDは、カラオケの『コートダジュール』、ネットカフェの『快活CLUB』、さらには結婚式場でも、横浜みなとみらい21地区にある日本最大規模のウエディング施設『アニヴェルセルみなとみらい横浜』のほか全国に14施設を展開しています。またフィットネスクラブなどにも分野を広げ、非スーツ化のシェアを着実に4割近くまで上げてきています」(同)
コナカは、'98年5月に子会社コナカエンタープライズを立ち上げ、同年10月からフランチャイズチェーン展開を始め非スーツ化に取り組んできた。から揚げ専門店『からやま』や、かつ専門店『かつや』、『大衆食堂 半田屋』、それにインターネットカフェ、漫画喫茶の『自遊空間』、英語の学童保育園『KIDs Duo』などを出店する。
コナカ広報担当者によれば、今後、同社は『かつや』などの飲食店を年間2、3店舗ずつ増やす予定だという。それにしても、様々な多角化の中でなぜ飲食業に力を入れるのか。
前出の経営コンサルタントが言う。
「民間会社による調査では、特にかつ丼市場や焼き肉市場は、3年後の東京五輪までにまだ15%前後は伸びるという報告があるからです。ラーメン店や他の飲食業と比較すると、とんかつ、から揚げ市場は、まだあまり競合が少なく、場所や地域ではまだ二桁の伸びが期待できるといいます」
それに加えて、出店でのコストが抑えられるという特典もあるという。
コナカ広報担当は、そのあたりをこう回答する。
「郊外型店舗の駐車場、土地の有効活用とシナジー効果(相乗効果)をはかれます」
先の経営コンサルタントも、こう解説を加える。
「既存の紳士服店はたいてい大きめの駐車場を持っている。その紳士服店舗の横に飲食店を出店すれば、駐車場を有効利用できることと、飲食店、紳士服のどちらかに来店した客がどちらにも寄るという相乗効果も期待できるためです。さらに、FC展開であれば共通マニュアルを基にするため、他業種でも運営しやすいというのもあります」
しかし、紳士服大手各社が、スーツ以外の業種に進出すれば必ず成功するという保証はどこにもない。実際、過去には非スーツ業種に進出して、すでに撤退している例もある。しかし、手をこまねいてはいられない状況なのだ。
「大手紳士服業界も人口減の中で、スーツ1本に頼っていてはジリ貧になるのは火を見るより明らか。こうした中で、スーツ5割、他業種5割で運営するのが、サバイバルのカギというのです」(同)
紳士服業界で10年先、生き残っているのは果たしてどこなのか。