「ZOZOは名指しでヒートテックより優れていると強調しました。ユニクロからすれば、挑戦状を叩きつけられたのですからたまりません」(衣料業界関係者)
なぜZOZOは、露骨にユニクロを刺激するのか。
「衣料品業界では、さまざまな企業が機能性肌着に参戦している。後発のZOZOは、よほどインパクトがなければ見向きもされません。そこで思い切ってトップランナーのユニクロに挑戦状を叩きつけるような大胆な手法に打って出たのだと思います。それに、ZOZOは東証一部上場企業で売上高1000億円の日本最大級のファッション通販サイトですが、ユニクロの柳井正会長からは『モノを作っていないおもちゃの会社』と、こきおろされてきたので、ライバル意識もあるのでしょう」(同)
ゾゾヒートは、ヒートテックよりも価格を安く設定。発熱性も豪州、ニュージーランドなどメリノ種の羊からしか取れない最高級ウールを採用しヒートテックを上回ると喧伝する。また、サイズも多く、ユニクロが8サイズに対しZOZOは1000サイズ用意している。どちらの商品が優れているかは個人差もあるだろうが、ZOZOが機能性肌着戦争をより熾烈にしたことは間違いない。
しかし、機能性肌着は、何もユニクロとZOZOだけではない。グンゼの「ホットマジック」、しまむらの「ファイバーヒート」、イオンの「ピースフィット」、セブン&アイの「ボディヒーター」、無印良品の「綿混あったかインナー」、GUの「ジーユーフィット」など、多くのメーカーが手を出し群雄割拠だ。
「メーカーは独自の素材や、他製品との差別化を訴求して販売に懸命です。しかし、機能性肌着は各メーカーに大きな違いがなく、個人によって好き好きで選ばれているのが現状です。しかし、草分け的存在のユニクロのヒートテックは、ネームバリューでほかを圧倒しているのは事実。だからZOZOも対ユニクロなのでしょう」(業界関係者)
業界関係者に言わせれば、各メーカーが奮闘して差別化をしても、機能性肌着の科学的仕組みはほぼ一致しているのだという。仕組みはこうだ。
「成人は1日に体から600〜800㎖の水蒸気を自然に出します。このときに発生した水蒸気が、肌着の繊維とぶつかるとき熱が生まれます。つまり機能性肌着は、水蒸気が多くぶつかり、さらに水とくっつきやすい繊維を素材に使っているのです。さらに発熱に使った水蒸気も、繊維に留まったままだと水分で冷えてしまう。それを繊維の外側に持っていき逃がしてやる。また、蒸発時に熱を奪うので、その熱を保てるよう肌着に空気の層も作ってやるのです。これが機能性肌着の仕組みです」(業界関係者)
ゆえに、機能性肌着を各社いろいろ工夫して作っているが、中身は似たり寄ったりで、性能に大きな違いはないのだ。現状、消費者個人の好みで商品が選ばれているという。
しかし、「ほかの機能性肌着よりも明らかに暖かい」と話題を呼んでいる商品がある。その商品は、創業65年のワシオ株式会社が展開する衣料ブランド「もちはだ」だ。
「冒険家、植村直己さんが南極に行ったときに履いたのが、このワシオの靴下と話題になりました。ワシオの特徴は、他では真似できない独自の“起毛技術”です。通常の起毛は、生地を織った後に毛羽立たせるのですが、パイルと呼ばれる編目は切れやすく、暖かい空気が逃げやすくなります。それをワシオの機械は、パイルを切らずに毛羽立たせることでほかの機能性肌着と比べて、頭一つ抜けた暖かさを提供できるのです」(衣料業界関係者)
ワシオの機能性肌着は、これまでは宣伝力やコスト面で優位の大手企業の陰に隠れていた。それが最近、釣り動画を投稿する有名ユーチューバーに宣伝を以来したことで、一気に認知度が上がった。
実際に使用した釣人や、建築現場で働く人たちの間でも「寒さ知らず」と高評価。口コミでも話題になり、一挙に拡大して、機能性肌着業界に風穴を開けつつあるという。
この動きに大手衣料メーカーはどう立ち向かうのかは分からない。いずれにしても、機能性肌着の性能は日進月歩で発展している。近い将来、エアコンもストーブも不要の魔法の機能性肌着が生まれるかもしれない。