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奈良の神社話その三 「むすびの岩座」で恋結び──桜井市・談山神社

 “縁結び”といえば、やはり島根県の出雲大社がダントツの人気。けれど今、奈良では恋の強い味方として談山神社がちょっとした話題だ。

 談山(たんざん)神社は紅葉で有名な多武峰に鎮座する。祭神は、後の天智天皇とともに乙巳の変(いっしのへん・大化の改新のこと)を起こした中臣鎌足。優美な朱塗りの十三重塔をはじめ、境内には十以上の重要文化財が立ち並び、さながら青空美術館といった風情だ。

 神社に塔という不思議な組合わせ通り、談山神社の成り立ちは少し異色。はじまりは摂津に葬られた鎌足の遺骸を、息子の不比等らが多武峰へ改装したこととされる。そこに妙楽寺と鎌足の神像を安置する聖霊院が建立された。つまり寺と神廟の複合体として進展していったわけだ。

 藤原一族の繁栄を支えたともいえる当神社のご利益は、ズバリ勝運。だが、恋の願いを聞き届けてくれるのは“鎌足公”ではない。境内社の「恋神社」こと東殿に祀られる鎌足の妻・鏡王女(かがみのおおきみ)だ。

 鏡王女は額田王の姉とも伝わる女性で、天智天皇に寵せられ、後に鎌足の正室になったという謎多き歌人。死去の前日には天武天皇の見舞いを受けたなど華麗な半生が語られる。この恋神社の脇には「むすびの岩座(いわくら)」があり、思いを胸に撫でる参拝者が後を絶たない。

 古来、紅葉に詩や思いを記して流せば恋が叶うと信じられていた。中国の故事が発端で、そこから「紅葉良媒」という熟語が生まれたほど。秋には燃えるばかりの紅葉に包まれる多武峰の情景は、さぞかし恋の成就をイメージさせたことだろう。そこに鎮座する才色兼備の鏡王女が、悩める女性たちの心を惹き付けていったのは当然かもしれない。

(写真「『むすびの岩座』と恋神社」)
神社ライター 宮家美樹

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