東京都内で内科・神経科クリニックを開業する白井一文院長の話で気になるのが、「うつの原因が、栄養不足によるケースもある」という話だ。
栄養素と“心”の関係は本当にあるのだろうか。前出の林氏に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「うつ症状を解消するために、サプリメント療法を取り入れている医療施設などはあります。しかし、栄養不足と憂鬱な気持ちなどが、直接関係するとは考えにくいですね。ただ、無理なダイエットで栄養不足になり、自分を追い込んでしまうことで精神的に参ってしまい、ストレスが溜まり“うつ”になることは考えられますね」
ただ、栄養補給によって心の問題が解決することはないとしても、普段から栄養素の必要性を心掛けるだけでも予防になるという。
「心が疲れていると、消化器も疲れてしまうため、消化しやすい物を食べることは望ましいし、ストレスに強くなる栄養素や精神の興奮状態を和らげる栄養素はあります。タンパク質やビタミンB群にビタミンC、カルシウム、マグネシウムなどです。逆な言い方をすれば、これらの栄養素が不足したままだと、精神的な疲れが“うつ状態”に繋がるといえるかもしれません」(同)
前出の白井院長もこんな見解を示す。
「うつ病にしても、しっかりとした栄養補給で健康体を維持できるように、周囲の人がサポートしていけば、心も体も、改善の兆しが表れます。とにかく食事はきちっと摂りましょう。通常の食事では過剰摂取の心配はありません。一つの成分がそのまま反映されるほど人の体は単純ではありません。効果にこだわりすぎた“健康のための偏食”、好みに偏った食事にならないように注意することが大切です」
冒頭で、新型栄養不足が「脳梗塞」「脳出血」などの引き金になることに触れた。一般的に、これらの病気の原因は「脂肪の摂り過ぎから血液がドロドロになり、血管を詰まらせるため」といわれているが、ある医療関係者によれば、日本人の場合、それは少数派といえるという。
「むしろ、栄養不足によって血管がもろくなり、その結果、脳の中を走っている細い動脈にコブ(動脈瘤)が出来やすくなり、やがてそこが詰まるタイプの脳梗塞(=ラクナ梗塞)が約半数に達するのです」(同関係者)
となると、肉料理は脂っこくて重たいからと避けず、積極的に食べるべしで、40歳を超えたら、「粗食」から「たっぷりと栄養を取る」にギアチェンジした方が良いのかもしれない。
また、加齢とともに体内の酵素が減ってくる。つまり中高年になると、タンパク質が必要とされても一度に大量なタンパク質を吸収できなくなる。そのため一日3回、均等に摂ることが理想的で、朝は卵と牛乳、昼は魚、夜は肉など、バラけさせたタンパク質の摂取を心がけたいところだ。
飽食の時代と言われて久しいが、新型栄養失調者が増えているというデータを聞かされると、「食事は一汁一菜」「もっぱら玄米食」「肉より魚」などの“粗食の信仰”を改める必要があるといえるかもしれない