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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 喫煙規制強化は誰のため

 厚生労働省が、国会に提出する予定の健康増進法改正のたたき台を明らかにした。
 不特定多数が出入りする建物においては、原則禁煙とし、違反者には30万円の罰金を科すという。例えば、飲食店も全面禁煙だ。ただし、完全に隔離される喫煙室を設けることは許している。

 私は、時代の流れだから、厚生労働省が分煙を進めることは十分理解できる。しかし、今回の法案には大きな問題がある。例えば、喫煙室で飲食を提供することは、一切禁止にするという。また、物理的に喫煙室を設置することが困難な小規模飲食店には禁煙の例外を認めるが、それはバーやスナックだけで、居酒屋のような料理を提供するところは全面禁煙の方針だ。
 もともと、今回の規制は、「受動喫煙防止の強化」が目的だった。しかし、今回の厚生労働省案では、そもそもが「タバコを吸いながら食事をすることはまかりならぬ」というルールになっているのだ。
 喫煙ルームは、完全に隔離された空間なのだから、受動喫煙の心配はまったくない。ところが、その喫煙室の中で、食事をすることを許さないと厚生労働省は言っているのだ。つまり、喫煙者には外食の際、自由を与えないということになる。

 ここまでくると、私は、喫煙者に対する怨恨を感じざるを得ない。「タバコを吸う奴なんかには、外食をする権利はないのだ」という差別意識がむき出しになっているのだ。これは、喫煙者に対する明確な差別だ。トランプ大統領が中東6カ国からの入国を一律に禁止しようとしているのと、構造としては同じだ。
 喫煙規制は、オリンピックで日本が世界に恥をかかないためだという説もあるが、欧米の飲食店には、多くの場合テラスがあり、喫煙は自由だ。また、道路も原則喫煙自由になっている。ところが、日本の飲食店にテラスはほとんどなく、都心部では道路も禁煙のところが多い。つまり、このままでいくと、日本は世界で最も喫煙規制の厳しい国になってしまう。

 こんな法律ができたら、日本には喫煙ができる非合法の地下食堂が生まれてしまうだろう。禁酒法時代のアメリカと同じだ。そして、それが結局は反社会的組織の資金源となっていくのだ。
 私が知る限り、非喫煙者でも、完全な分煙が達成されて、自分に被害が及ばないのであれば、喫煙者がタバコを吸うことは構わないとする人が圧倒的に多い。しかも、厚生労働省の研究班の調査によると、喫煙者の平均寿命は、非喫煙者よりも3.5年短くなっているという。つまり、それだけ年金給付が減っているということだ。おおざっぱに言えば、喫煙者がもらう年金は非喫煙者よりも4分の1少なくなる。だから、非喫煙者にとっても、喫煙者がどんどんタバコを吸ってくれれば、年金保険料の負担が減って、望ましいことのはずなのだ。

 それなのに、なぜ厚生労働省は、ここまでひどい喫煙者イジメをするのか。
 実は、今回の喫煙規制には、電子タバコが入らない可能性がある。もし電子タバコが規制対象から外れれば、米国が圧倒的シェアを持つ電子タバコに需要が殺到する。それが狙いかもしれない。

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