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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第3回

 前回取り上げた「国の借金」問題は、財務省が国民の危機意識を(増税実現のために)煽ることを目的に編み出した「誤用によるプロパガンダ」である、と述べた。
 ただ「国の借金」とはあくまで「誤用」であり、完全なウソとも言えない。財務省側は、その点をうまく突く。
 「我々はグローバルな『政府の負債』を慣習的に『国の借金』と呼んでいるだけです。『国の借金』の意味を『日本国家の借金(対外負債)』と勘違いする人は確かにいるかも知れませんが、別に我々は意図してそうしているわけではないのです。あくまで慣習的に『国の借金』と呼んでいるだけです」
 こんな強弁が(相当に強弁だが)できないこともない。

 それに対し、政府の負債(財務省の言う「国の借金」)を日本の人口で割り、「国民一人当たり○百万円の借金! 日本の赤ちゃんは生まれた瞬間に○百万円の借金を負っている」といったレトリックを用いると、これは正真正銘の「ウソ」になる。
 何しろ、政府の負債は「国民の借金」ではない。というよりも、政府の負債を「貸している債権者」こそが、日本国民なのだ。「お金を借りている」のではなく、「政府にお金を貸している」のが、日本国民すなわち読者なのである。

 「自分は国債など買っていないし、政府にお金なんか貸していない」
 と反駁したくなった人は少なくないだろうが、国債を保有していない読者であっても、間違いなく日本政府にお金を貸している。
 理由を説明しよう。

 多くの日本国民が理解していないように思えるわけだが、「誰かの金融資産は、誰かの金融負債」になる。より分かりやすく書くと、「誰かがお金を貸しているとき、別の誰かが必ず同額のお金を借りている」という話だ。何を当たり前のことを、と言いたくなった人も少なくないだろうが、この基本を理解していない人が意外に多い。
 金融資産とは、具体的には「現金」「銀行預金」「債券」などだが、例えば読者が100万円の銀行預金を保有していたとしよう。100万円の銀行預金は、読者にとっては確かに「金融資産」なのだが、銀行側にとっては「金融負債」に該当する。今ひとつピンと来ないかも知れないが、本概念は「経済」を理解する上で必須の知識なので、落ち着いて読み進めて欲しい。

 銀行にとって「銀行預金」は金融資産ではない。「銀行預金」とは、銀行が読者から「借りた」お金、すなわち金融負債なのだ。銀行は読者からお金を「預かっている」わけではない。借りているのである。何よりの証拠に、銀行側は預金を保有する読者に対し(微々たるものとはいえども)定期的に金利を支払い、さらに読者が「預金を返してもらう」ことを望んだとき、きちんと「返済」してくれるだろう。
 読者が100万円をATMでおろそうとしたとき、銀行側が(預金額が十分であるにも関わらず)拒否した場合、それは債務不履行に該当する。

 ところで、銀行は別に読者からお金を借りる(=預金を集める)ことが商売ではない。銀行預金が増えていくことは、銀行の「金融負債」が一方的に積み上がっていくことを意味する。預金を国民から集めるだけでは、銀行側には金利の支払いが発生するのみで、逆ザヤで倒産してしまう。
 銀行の業務は、預金(金融負債)として借り入れた(預かった、ではない)お金を、別の誰かにより高い金利で貸し出し、金利差を得ることなのだ。「安い金利でお金を借り、高い金利でお金を貸す」ことこそが、銀行のビジネスモデルの基本なのである。

 さて、現在の日本は深刻なデフレが継続しており、企業は設備投資を増やそうとしない。設備投資をしない以上、企業はお金を銀行から借りる必要がない。
 より専門的な言い方をすると、我が国には民間の資金需要が足りない。企業に限らず、家計もこの不況下では、住宅ローンなどを率先して組もうとしない。さらに、中小零細企業に対しては、銀行側が不良債権化を恐れてお金を貸せない。理由は様々だが、いずれにせよ銀行から民間への「お金の貸付」という流れが細まってしまっている。
 とはいえ、銀行の手元には毎日、銀行預金が「貸し付けられる」。預金について、銀行は誰かに借りてもらわなければならない。だからこそ、日本の銀行は国債を購入し、政府にお金を貸し付けるという形で銀行預金を運用しているのだ。

 我が国のデフレはあまりにも深刻で、民間の資金需要が少ないため、大きな「日本円」の借り手は、事実上、日本政府以外にはいない。結果、日本政府は人類史上屈指の低金利で国債を発行することができている(本稿執筆時点の十年物日本国債の金利は0.76%)。
 次回以降、具体的な数字を見ていくが、日本国債の保有者、すなわち「日本政府にお金を貸している債権者」の過半は国内の金融機関である。とはいえ、銀行などの金融機関は、別に自己資金を日本政府に貸し付けているわけではない。あくまで国民から銀行預金などの形で借りたお金の「運用先」として、日本国債を購入しているのである。
 すなわち、日本政府の負債(国の借金)の債権者(金の貸し手)は、直接的には銀行などの国内金融機関であり、「最終的な債権者」は日本国民なのだ。

 日本国民は「莫大な借金を負っている」のではない。むしろ、巨額のお金を日本政府に貸し付けている「債権者」が日本国民なのだ。これは「統計的」に覆せない真実である。日本の赤ちゃんは、生まれながらにして○百万円の債権を持っている、という話なのだ。
 それにも関わらず、財務省の手駒と化した大手新聞などは「国民一人当たり○百万円の借金」というフレーズを多用する。この種の「ウソ」に騙されてはいけない。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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