厚生労働省元局長の無罪が確定した文書偽造事件が制度見直しの契機。ところが、取り調べの録画・録音が義務付けられるのは全事件の3%。しかも例外が幅広く認められ、その判断は捜査機関に委ねられるなど、期待された冤罪防止の機能はすっかり骨抜きにされた。
「一方で捜査権限は大幅に拡大した。初めて司法取引が導入されるが、自分の刑を軽くするため捜査官の期待に添う虚偽の供述を行い、無関係の人を巻き込む危険性が拭えない。また従来、4種類に限定されていた通信傍受(盗聴)の対象犯罪に、殺人や強盗、窃盗、詐欺、恐喝、児童ポルノの提供など九つが追加され、通信会社社員の立ち会いも不要になるなど、盗聴が日常的な捜査手法となる恐れが強いのです」(法曹関係者)
これだけ問題の多い内容だが、昨年から継続審議となっていた今国会での審議は「拍子抜け」(先の法務省関係者)するほどアッサリ決着した。参院での審議はわずか20時間余。これには当初、強硬に反対していた民進党が昨夏の与党との協議で修正合意したことが大きい。
民進側の筆頭理事として修正協議をリードし、「捜査機関の“力”の拡大に偏り過ぎていた原案に対し、冤罪をなくすという“正義”の要請に引き戻す修正ができた」と賛成討論で胸を張ったのは、今をときめく山尾志桜里政調会長。しかし、修正内容は司法取引協議への弁護士の関与など、わずかな変更のみ。これでなぜ賛成なのか?
「山尾氏は与党の出方を見誤った」と苦々しく語るのは、民進党関係者。
「刑訴法を審議する参院法務委員会には、野党のヘイトスピーチ規制法案が先に出ていて、与党がこの審議を受け入れない限り刑訴法には手がつけられないと山尾氏らは高をくくっていた。ところが今春、与党がヘイトの対案を出して刑訴法の審議を拒む理由がなくなったんです」(同)
しかも、参院側の民進党理事で今回、改選を迎える有田芳生議員は、ヘイトスピーチ法案の熱心な推進者。
「ヘイト法を自らの手柄とするため、これを成立させる見返りに刑訴法には目をつぶったと勘繰られても仕方がない。それほど参院審議は中身が乏しかった」(同)
盗聴拡大は半年後、司法取引は2年後に施行されるが、呆れた駆け込みぶりだ。