「テレビ事業が赤字続きだからといって、問題の生活保護じゃあるまいし政府が簡単に助け船を出すわけがない。当然、可能な限りの自助努力をアピールする必要がある。現にパナソニックは東京本社ビル(東京・港区)の売却を決めていますからね。その延長で捉えると、創業以来初めてとなる本社スタッフの大幅リストラも至極わかりやすい。要するにテレビ事業再生に向け、目に見える形で血を流す。だから松下政経塾出身の野田佳彦首相率いる政府に『支援をよろしくお願いします』と、ひたすら頭を下げた図式なのです」
政府支援の実績という点では、有機ELテレビでタッグを組むソニーに一日の長がある。今年の4月、かつて日本のお家芸だった液晶の復活を目指し、ソニーと東芝、日立製作所の液晶パネル事業を統合して旗揚げされたのがジャパンディスプレイ。社長の大塚周一氏はエルピーダメモリの元最高執行責任者で、産業革新機構から過去最高の2000億円を出資させた実績もあり、国策ビジネスの裏側に精通しているといえる。
「日の丸液晶連合を『ゾンビの寄せ集め』と皮肉る面もありますが、何とかして公的資金を引き出したい下心のある企業には、産業革新機構が神様に見える。実際、ジャパンディスプレイで政府マネーによる錬金術の妙を見せ付けられたソニーは、パナソニックとの有機ELテレビ交渉を決定付けるのは機構からの資金調達だとばかり、水面下で猛然と働きかけているようです」(ソニー・ウオッチャー)
むろん、パナソニックとて百戦錬磨のツワモノ。有機ELテレビで提携交渉を開始した時点でソニーの魂胆を見抜き、機構マネーの魔力に魅せられていたに違いない。そういえばパナソニックは、かつて日立から買収した茂原工場(千葉県茂原市)をジャパンディスプレイに売却、金額は公表されていないが情報筋によると 「約300億円で売却し、相応の利益が出た」とされる。その意味でパナソニックとソニーは、同じ穴のムジナなのだ。問題は両社の交渉がどう運ぶかである。
「ソニーの平井一夫社長は4月に就任したばかり。ハワード・ストリンガー会長(6月総会から取締役会議長)が隠然たる睨みを利かせるはずですし、6月総会を機に就任するパナソニックの津賀・新社長にしても、先輩の大坪文雄・新会長が目を光らせているため独自カラーを発揮して既定路線を覆すことは考えにくい。ということはストリンガーさんと大坪さんが早々に敷いたレールに乗り、両社が血税注入路線をひた走るに違いありません」(情報筋)
確かに自助努力のアリバイ工作を踏まえた「打倒、サムスン」は国民のナショナリズムを刺激する。しかし“日の丸テレビ”復活のために巨額の血税が注入されるとしたら、国民の理解がどこまで得られるかは怪しい限りだ。