『洋服の青山』を展開する業界トップの青山商事の売上高は、対前年同期比3%減の1051億円となり1億円の赤字。業界2位のAOKIホールディングスの売上高は、対前年同期比2.1%減の839億円となり10億円の赤字。業界3位のコナカは、2018年9月通期決算で売上高651億円の4億円の赤字と、大手紳士服量販店3社ともに最終赤字となったのだ。
スーツ業界の苦戦の背景には何があるのか。アパレル関係者はこう分析する。
「紳士服店の収益のメーンは、単価の高いメンズスーツ。どの企業も売上高の約3割をメンズスーツで稼ぐといわれています。それなのに、ここ数年で売れ行きに急ブレーキがかかったのです」
それは総務省の家計調査をみても歴然だ。同調査によると、1世帯当たりのスーツへの年間支出額は、2008年は6807円あったが、2017年には4676円に減っている。ネクタイに至っては、2000年の1439円から2016年は455円と、約3分の1に低下するほどだ。
不調の理由として団塊世代の大量退職により、「スーツ人口が減少した」と、前出のアパレル関係者は指摘する。
「団塊世代は1947年〜49年の第一次ベビーブームの人たちで、現在70歳前後。いくら定年制度が伸びているとはいっても、70歳ではさすがに仕事をしていない人がほとんど。この世代約690万人が一斉にスーツを脱ぎ始めたのです」
さらに中高年や20代の間でも、脱スーツ化が進んでいる。
「IT企業を中心に、スーツ着用を義務としない職場が増えています。パナソニックや伊藤忠テクノソリューションズなどのIT関連企業では、ジーンズやスニーカーでもOKというほど。さらに公的機関ですらそういう傾向が現れていて、スポーツ庁ではスニーカー通勤を奨励するほどの時代です。40代まではかろうじてスーツを好む人もいますが、20代はラフな格好を切望する人がほとんどですからね」(経営コンサルタント)
スーツ離れが加速するだけでなく、新規参入が相次ぎ競争も激化している。
「大手紳士服メーカーでは既製品スーツの売り上げが激減していますが、オーダーメードのスーツは需要がありました。ところが、ECアパレル企業のZOZOが、採寸用ボディースーツの“ゾゾスーツ”を無料配布することで、オーダーメードスーツに殴り込みをかけてきた。当初、1000万着を配布予定で、最終的に300万着に落ち着きましたが、この画期的採寸システムでスーツをオーダーした人は膨大な数に上ります。すでに若い層では、従来の『大手紳士服チェーンでは買ったことがない』という人が現れるほど、業界を侵食しています」(前出・アパレル関係者)
アパレル大手のオンワードグループは、オーダーメードの新ブランド『カシヤマ・ザ・スマートテーラー』(以下、テーラー)の展開を始める。伊藤忠商事は全国のテーラーと提携し、高級オーダーメードスーツ事業に参入した。さらにイオンやイトーヨーカ堂、ユニクロのファーストリテイリングは、低価格スーツ販売に積極的に動き出し、大手紳士服量販店を苦しめる。
大手3社は、この逆風にどう立ち向かうのか。
「家で洗えるスーツやスポーツメーカーとのコラボなど、新製品でなんとかサバイバル戦をしのいでいます。また、スーツ以外の事業を拡大し、生き残りを図ろうと躍起ですね」(業界アナリスト)
例えば、青山商事は駅ナカを中心に靴修理店『ミスターミニット』を展開している。さらにカード事業にも力を入れていて、2018年4〜9月期のカード事業の売上高は、前年同期比18・3%増の11億円。紳士服事業の赤字をフォローする形だ。
AOKIは2003年に始めた漫画喫茶『快活CLUB』が好調だ。2018年9月末時点で全国に359店と、順調に店舗数を増やしている。青山商事と同様に、この漫画喫茶事業の業績は2018年3月期の売上高が前期比12・8%増の341億円、営業利益は9.4%増で20億円の黒字となり、紳士服事業の赤字を補っている。
コナカは、とんかつ店『かつや』や、からあげ専門店『からやま』など、フード事業にも力を入れ、外食業界からはライバル視されているほど有力事業へと成長している。
もはや本業がお荷物になっている紳士服業界は、今後も異業種でのサバイバル戦を挑んでいくのだろうか。10年後、大手紳士服企業がどんな姿を見せているのか、誰にも予想がつかない。