日本では一部メディアが手短に報じ、有力紙はなぜか無視を決め込んだ。だから世間の関心度は極めて低いが、市場関係者は「新日鉄住金の命運を左右する。下手すると大量の返り血を浴びかねません」と声をひそめる。
ウジミナスは1958年に日本とブラジルの合弁で設立した同国第2位の鉄鋼会社。新日鉄住金(当時の八幡製鉄、富士製鉄)は設立当初から出資し、'06年に持分会社化。海外戦略の重要拠点に位置付けており、'08年のリーマンショクで業績が悪化した後は、役員や技術者を派遣するなど経営再建に尽力していた。
その会社で社長解任とは穏やかではない。現地報道や関係者の話を総合すると、解任された3人の取締役はウジミナスに27.66%出資する鉄鋼大手テルニウム(本社アルゼンチン)出身。解任理由は「お手盛りボーナス」が支給されていたことだ。後任社長に就いたロメル・ソウザ氏を新日鉄住金が支持したことから、仕掛け人は新日鉄サイドと見られている。
果たせるかな、テルニウムは社長解任決議の無効を訴えたばかりか、大株主であるブラジル銀行年金基金から「市場価格に82%のプレミアムを付けて買い取ることで合意した」(関係者)。結果、テルニウムの保有株は38.06%に高まり、新日鉄住金は第2位の株主に転落。これを機にテルニウムの本格的な逆襲が始まる図式だ。
「意外に思うでしょうが、新日鉄住金とテルニウムはメキシコで自動車向け鋼板の合弁事業を行う間柄。その関係から3年前にブラジルのナショナル製鉄(同国4位)がウジミナスの乗っ取りを画策した際には双方がタッグを組み、持ち株比率を高めることで防戦した。ナショナル製鉄はウジミナス株の15.91%を保有しており、もしこの株をテルニウムが取得すれば新日鉄は資本の論理で“無血開城”を迫られる。もう、これは屈辱です」(外資系証券アナリスト)
むろん、新日鉄住金にも逆襲策はある。ナショナル製鉄の保有株を逆にソックリ肩代わりすれば、テルニウムの影響力を排除できる。しかし、いわく因縁のある相手である。そう簡単に商談が成立するわけがない。たとえ先方がその気になったところで、今度は相当のプレミアムが不可欠。それを極度に警戒するのか、進藤孝生社長は追加出資には及び腰だ。
これが日本を代表する巨大企業、新日鉄住金の“外患”ならば“内憂”は名古屋製鉄所での相次ぐトラブルだ。今年1月から9月までの間に停電でコークス炉のガスが処理できなくなり、黒煙が噴き出すトラブルが計4件も発生。9月3日にはコークス炉付近の石炭搭が炎上、15人が重軽傷を負った。相次ぐ停電トラブルの原因が解明されない中、生産を再開しての火災とあっては弁解の余地はない。
世間の集中砲火を浴びた同社は10月2日、酒本義嗣所長を11月1日付で解任し、後任に藤野伸司常務取締役が就くと発表した。常務執行役員兼所長の酒本氏よりも上席の役員が後任ポストに座るのは異例である。
進藤社長は10月4日、愛知県の大村秀章知事や名古屋製鉄所がある東海市の鈴木淳雄市長に“お詫び行脚”し、今回の火災事故について「石炭塔に一定期間、貯蔵されて発熱した石炭と、空気が反応して燃焼爆発したと聞いている」と釈明したが、例によって真相解明は先送りされたまま。同製鉄所は昭和33年の設立とあって設備の老朽化が指摘されるが、ライバル社OBは「それだけの理由とは思えない」と打ち明ける。
「鉄鋼業界はバブル崩壊後の大型リストラの影響で50歳代以上と30歳代以下の世代に集中している。しかも団塊世代が一気に退職した結果、事故を未然に察知して対応するなど技術の伝承がスムーズに進んでいない。新日鉄住金は合併を繰り返した分、お互いに遠慮があって余計な口出しを控え、マニュアルに書いてない問題に対応できない。所長が交代すれば簡単にクリアできる問題ではないのです」
リストラにまい進したとはいえ、新日鉄住金はグループの連結社員だけで9万人の大台に迫る。これをどう束ね“内憂外患”をどう乗り切るのか。『財界総理』の座から退いて久しい同社のかじを取る進藤社長には、まだまだイバラの道が続く。
(注‥文中では新字体の「鉄」に統一しています)