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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第306回 お化粧しても「悪い」日本経済

 2018年7―9月期のGDP(2次速報)は、対前期比▲0.6%、年率換算▲2.5%とマイナス成長に終わった。もっとも、マイナス成長以上に安倍政権にとってショックだったのは、GDPデフレータ(インフレ率の一種)が対前期比▲0.1%、対前年比▲0.3%と、マイナスに落ち込んでしまったことだろう。GDPデフレータのマイナスは、日本経済が「再デフレ化」していることを示している。

 ちなみに、安倍政権はデフレ脱却の条件として、GDPデフレータ、消費者物価指数、単位労働コスト、そして需給ギャップ(GDPギャップ)の4つを重視している。GDPデフレータがマイナスに落ち込んだ時点で、日本のデフレ脱却は否定されるわけだが、本日、取り上げたいのは「需給ギャップ」である。

 需給ギャップとは、 ●潜在GDP:国民経済のすべての設備、労働者が稼働したときに生産されるモノ・サービス。つまりは「供給能力」。 ●名目GDP:実際に購入(支出)されたモノ・サービス。つまりは「総需要」。 その「差」のことだ。

 名目GDPが潜在GDPを上回っていると、「総需要>供給能力」となり、インフレギャップ(需要過多)になる。モノやサービスの生産が間に合わないため、当然ながら物価は上がる。

 逆に潜在GDPが名目GDPよりも大きくなれば、「供給能力>総需要」というわけで、モノやサービスを生産しても余る。つまりは、デフレギャップが発生し、物価は下落するのである。

 前記のポイントは、 「総需要が供給能力を上回るインフレギャップの統計がとれるか?」 だ。落ち着いて、考えてみてほしい。「=総需要―供給能力」の値が明示されてしまうということは、「供給されないモノやサービスが買われた」という話になってしまうのだ。無論、生産、供給されないモノ、サービスが買われるなどということはあり得ない。

 ところが、現実の日本では、インフレギャップが「数値」として発表されている。図のプラス方向が「インフレギャップ」、マイナス方向が「デフレギャップ」になる。図の通り、’13年Q3から’14年Q1まで(=消費税増税前)、あるいは’17年Q2から’18年Q2までの5四半期は、インフレギャップがプラス化している。供給能力を上回り、生産できないモノやサービスが「売れた」というわけである。 「そんなバカな」 という話なのだが、なぜこのような意味不明な統計になるのか。理由は、内閣府が潜在GDP算出の際に、元々の「国民経済のすべての設備、労働者が稼働したときに生産されるモノ・サービス」ではなく、「過去に生産されたモノやサービスの平均」という、奇妙奇天烈な定義を用いているためだ。

 例えば、自己ベストタイムが10秒の100メートル走のアスリートが「最短タイムは何秒ですか?」と問われれば、もちろん「10秒」と答えるだろう。「過去の平均タイムは11秒」などと答える人はいない。

 ところが、こと潜在GDPの統計の際には、「最大の生産量」ではなく、「平均の生産量」が供給能力として設定されてしまっているのだ。「最大の生産量」で供給能力を図る考え方を「最大概念の潜在GDP」、内閣府などが用いている過去の平均をとった「インチキ供給能力」を「平均概念の潜在GDP」と呼ぶ。

 潜在GDPを用いると、供給能力が「小さく見える」ことになってしまう。結果的に、総需要が供給能力を上回り、インフレギャップが「統計」できるという、摩訶不思議な状況になってしまうのだ。

 ちなみに、日本政府は需給ギャップの算出時に、元々は最大概念の潜在GDPを使っていた(当たり前だが)。それを小泉政権期に「デフレギャップが小さくなり、デフレ状況ではないように見えやすい」平均概念の潜在GDPに変えてしまったのは、竹中平蔵氏である。

 さて、本稿のポイントは平均概念の潜在GDPというインチキ定義ではない(これも問題だが)。それ以上に重要なのは、デフレギャップが小さくなりやすく、かつインフレギャップが明示化されてしまう、平均概念の潜在GDPを用いたインチキ需給ギャップですら、’18年Q3(7―9月期)はマイナスになってしまったという点である。

 実際のデフレギャップ(最大概念の潜在GDPを用いた場合)はもっと大きいのだろうが、いずれにせよ日本がデフレ脱却していないことに変わりはない。

 あるいは、第289回で取り上げた、賃金統計の「サンプル変更」。給料が高い事業所群と、給料が低い事業所群を入れ替えた。それは別に構わないのだが、日本政府は対前年比の統計を出す際に、「入れ替え後のサンプル」と「入れ替え前のサンプル」を比較し、 『実質賃金、21年5カ月ぶりの伸びに=6月の毎月勤労統計』(ロイター通信 ’18年8月7日) などと発表していたのだ。ところが、その後は詐欺的な統計を用いていながら、実質賃金が対前年比でマイナスに落ち込んでしまった。需給ギャップにせよ、実質賃金にせよ、統計マジックを駆使しても「悪い」というのが現実の日本なのである。

 それにも関わらず、安倍政権は今年10月の消費税率10%への引き上げを強行しようとしている。「狂っている」としか表現のしようがない。しかも、今年は御代替わりだ。平成が終り、新たな御代が始まる、まさにその年に、消費税を再増税し、日本経済をデフレの渦の中に叩き込むつもりなのだろうか。安倍政権が「真っ当な感覚」を持ち合わせているならば、お化粧をした経済指標であっても「再デフレ化」が明らかで、かつ新たな御代が始まる以上、早期に消費税増税の凍結(できれば「減税」)を決断しなければならない。さもなければ、わが国は普通に再デフレ化し、国民の貧困化と小国化が、終わりない形で継続していくことになる。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家) 1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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