防御率4点台という不調が続く最大の要因は、相性が抜群にいい捕手ヘスース・スークレが今年1月のウインターリーグで脚を骨折。長期欠場することになったため、新加入の正捕手アイアネッタと、同じく新加入の第2捕手クレベンジャーを相手に投げることになったからだ。
岩隈は、左打者には速球とスプリッターを高低に投げ分けて打者の目線を狂わせ、凡フライや三振に仕留めるパターンが基本線だ。しかし、新しい女房役は高低を効果的に使ったリードができず、スプリッターを痛打されるケースが続出。
一方で、右打者にはスライダーとシンカー(シュート軌道の速球)を両サイドに投げ分けてゴロを引っかけさせるピッチングが、ある程度機能していた。しかし、日によってインサイドを効果的に使えないときがあり、その時は、攻めあぐねて甘く入ったシンカーやスライダーを長打にされるケースがよくあった。
それでも正捕手のアイアネッタは経験が豊富なので、大量失点するケースは少なかったが、第2捕手のクレベンジャーを相手に投げた7試合は「バッテリー防御率5.57」が示すように大量失点することが多かった。
そうなった最大の要因は、クレベンジャーが弱肩で盗塁阻止力が低いため、岩隈が一塁走者のけん制にエネルギーを割かれ、打者に集中できなかったからだ。
岩隈はメジャーで最も盗塁を許さない投手の1人と評価されている。一昨年はア・リーグの先発投手で唯一許した盗塁がゼロだった。それによってクイックのうまさは他球団に広く認識され、昨シーズン、岩隈が投げる試合で盗塁を試みるチームはほとんどなかった。
しかし、今シーズンはクレベンジャーの弱肩が岩隈のクイック能力を無力化する結果になったため、相手チームが積極的に盗塁を敢行するようになったのだ。
このように岩隈は、女房役の能力不足で、本来のピッチングができないまま投げ続けていた。そのため個々のボールの切れは悪くないのに、失点と被本塁打がかさみ、防御率が4点台に張り付いたまま一向に改善される気配がなかった。
光明が見えてきたのは6月下旬のことだ。
「全治6カ月」と発表されていたスークレが早い回復を見せ、6月20日に3Aでプレーを再開したのだ。
しかも、時を同じくして第2捕手のクレベンジャーが守備中に打者のファウルチップを右手に受け、骨折するアクシデントに見舞われ、DL入りを余儀なくされたのである。
当初、その代役として3Aから呼ばれたのは、昨年まで正捕手だったズニーノだった。しかし、ズニーノは岩隈をうまくリードできない。そのため、7月6日に岩隈専用捕手としてスークレが3Aから引き上げられ、7月8日のゲームで今年初めてバッテリーを組むことになった。スークレは、相変わらずバッティングがお粗末で、3Aでは打率が1割5分7厘。しかし、岩隈との相性のよさを評価され異例の昇格となったのだ。
岩隈・スークレのバッテリーが対戦したのは、昨年のワールドシリーズ覇者ロイヤルズ。打線にパワーと走力を兼ね備えた好打者を揃えるチームだが、岩隈はスークレの好リードで初回、先頭打者と次打者を連続して3球三振に仕留める上々の滑り出しを見せた。その後も岩隈は緩急とインサイドを効果的に使う投球でロイヤルズ打線を翻弄。7回3分の2を1失点に抑えた。失った1点は三塁手シーガーの判断ミスによる失点だったので、本来なら無失点で降板できたゲームだった。
注目されるのは、マリナーズが今後もスークレをメジャーに残し、岩隈専用捕手として使い続けるかだ。
スークレはリードにすぐれ、強肩で、ボールブロックもうまい。しかし、バッティングはかなりひどい(メジャー4年間の通算打率は1割8分0厘)。チームとしては一発のあるズニーノを第2捕手として使いたいのが本音だ。しかし、岩隈の好投を引き出す能力も無視できず、8月末まではズニーノとスークレを交互にメジャーに引き上げて、なるべく多く岩隈がスークレとバッテリーを組めるようにするだろう。そして、ベンチ入りの枠が25人から40人に増える9月1日以降は、スークレを岩隈のパーソナルキャッチャーとして活用することになると思われる。
岩隈は味方の得点援護によく恵まれて前半戦9勝した。7月15日から再開したシーズン後半は先発する試合が14試合あると予想されるが、10回以上スークレとバッテリーを組むことができれば17勝以上も夢ではない。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。