「実は私、ワキガなんです。それに気がついたのは学生の時。部活で仲のよかった友人達が、私のいない部室で“彩香ちゃんってワキガだよね”って話してるのを聞いてしまったんです。そこで初めて自覚しましたね」
彩香はそれからデオドラントスプレーなどを使い、匂いの拡散を防ぐべく努力したが、周りは直接指摘してこないため効果はわからなかったという。
「自分の鼻が匂いに慣れてしまったのか、どの程度のワキガなのかわからなかった。だからスプレーでケアしてれば大丈夫だと思い、いつしかあまり気にしなくなりました」
そして彩香は高校を卒業するとキャバ嬢になった。気温の低い冬の間は特に問題がなかったというが、汗をかきやすい夏が訪れると、同僚達の態度が変わってきたと彩香は話す。
「私が待合室に入ると、“なんか匂わない?”って同僚の子達が話し出したり、“ワキガの人って耳の垢がネチョネチョしてるらしよ”って私に遠まわしで伝えてくる子もいました。その瞬間、ああまだ治ってないんだとショックを受けましたね」
匂いが原因なのか客のリピートにも結びつかず、いつしか人と関わるのが怖くなってしまったという。また今後、ワキガの手術を受けるかどうかに関しても彼女は語った。
「手術は考えていません。親からもらった体に傷をつけたくないんですよね。今までピアスすら空けたことがありませんから。それに脇にメスを入れるなんて怖いじゃないですか」
そして彩香は自分の匂いで周りに迷惑をかけたくないと思い、あっさりと夜の世界を棄てた。現在は接客業から離れ、実家の製造業を手伝っているという。
(文・佐々木栄蔵)